
2006.08.28−29、南アルプス、仙丈ヶ岳、甲斐駒が岳の二連チャンに挑戦することになった。メンバーはGIZUMOとN友氏、OB2さんの三人である。ふだんあまり顔を合わさないイレギュラーなメンバーだ。
今年こそちょっとした山に行きたい、という気持ちと、ビデオ「皆神山の謎」の関連で甲斐駒、仙丈はどうしても行ってみたかったのだ。「潜象光」という、霊山と呼ばれる山から発している目に見えないエネルギーがこの山からは特に強く出ているらしいのだ。GIZUMOは霊能者でも科学者でもない唯の素人だが、市井の研究者として一度は体感したいという強い衝動を持っていた。
前日の夜中にN友氏、OB2さんを拾って出発。明け方までに高遠を抜けて北沢峠行きのバスの発着場になっている戸台口の仙流荘に着く予定である。GIZUMOはずっと運転だったのでそことバスの中で仮眠をとるつもりだった。途中高遠で迷ってしまい、真っ暗な夜道で懐中電灯を持ったお爺さんに出会ったので道を聞いた。お互いに吃驚してしまった。まだ四時前の山の中の道を一人で歩いているのである。妖怪じゃないのか?、と考えたりした。まさかね…。
途中コンビニで飲み物など調達しようと思っていたのだが、諏訪南ICからこっち、コンビニがないのである。迂闊だったなぁ…。で、高遠の町まで行けばなにかあるだろう、と引き返したのだが、全くなんにもないのだ。町の中心にバスのターミナルがあって、そこに自動販売機があったのでとりあえずポカリなどを買った。寂しいぞぉ。

仙流荘の無料駐車場には五時ちょっと前に着いた。既に沢山の車が停まっている。どうやら車中泊した人達がそろそろ起き出す頃だった。我々も用意をしてバスの時間を待った。GIZUMOはここで仮眠をとるつもりだったが、気持ちが昂ってとてもそんな気分にはなれなかった。
六時発のバスに乗っていよいよ出発である。バスの乗客は年配の女性の登山者が多かった。座席は八割がた埋まっている。ここから北沢峠まで、一時間かけて標高差1000mを登っていくのだ。
途中鹿が出現したり、熊の削った木を見たりと緊張が高まっていく。鋸岳の威容が見えてくるといよいよ気持ちが引き締まる。GIZUMOはここでも寝ることができず、なんのことはない、ほぼ徹夜で挑むことになってしまったのだ。
七時、北沢峠に到着。さすがに空気がヒンヤリしている。一応今日明日の天気は良いはずなのだが、この辺りの天気は変わりやすい。あとは運に任せるしかないのだ。目の前の長衛荘に入って今夜の泊まりの手続きをして荷物を置かしてもらう。登山客の一人が興奮して入ってきた。「今登ってきたけど、北岳が奇麗に見えたよ。チキショウ!、今日帰らなきゃならないんだよなぁ。」話を聞いているとこの人は一週間ほどこの辺りにいたのだがずっと曇っていたらしい。今日初めて晴れたというのだ。ラッキー!。やはり山の神様に呼ばれたのかな…。
7;30、出発の記念写真を撮って山小屋を出た。GIZUMOは3000mの山に挑むのは初めてだ。標高差1000mは先日の平標山で経験しているので大丈夫だと思うのだが、空気が薄くなるというのを経験していない。さて、どうなるのか。
深い樹林体を黙々と登る。ここから約二時間、五合目までは展望もそんなにない。N友さんもOB2さんも無口なほうで、GIZUMOもなにをしゃべっていいのか分からない。ただ黙々と登っていくのである。
一時間ほど登ったところで北岳が見えた。感動である。先程のオジサンはこの辺まで登って北岳を見て感激していたのだろう、と推測した。確かにこの景色は素晴らしいものである。Mr.Pとの登山と違って、二人のタフガイと一緒なので休憩があまりない。30分に一回くらいのペースである。というわけでコースタイム通り、二時間で五合目に到着した。ここからは甲斐駒ヶ岳、摩利支天の威容が見えた。なんとも言えない凄みがある。来た甲斐があったと本当に思った。GIZUMOには目を閉じても潜象光は見えないが、白いピラミッドと言われている甲斐駒には確かになにかを感じる。明日はあそこに行くのだ、と思うと自分が信じられない気分だった。
さて、ここで特筆することがある。それはN友さんの行為である。山でゴミは持ち帰るのは当然のことである。それがどんなに小さなものでもである。しかし全員がそういう常識を理解しているとはいえない。あるいはうっかりちょっとしたゴミを残してしまうこともある。しかし、そういうゴミを見つけたとしてもGIZUMOは眉をしかめるだけである。しかしN友さんはそれを拾っていくのである。心の中では分かっていてもいざ行為に移すのは勇気がいる。GIZUMOの場合自分の行為を自分で偽善的と思って気恥しさを覚えてしまうのだ。つまり性格が歪んでいるのだ。N友さんの素直な行為に感服してしまった。それから後はゴミを見つけるとN友さんに渡すことにした。これがGIZUMOにとっては精一杯のところである。出来ればGIZUMOもN友さんのように平然とゴミを拾えるようになりたいと思っている。それにしてもビニール系のゴミが以外と多い。自然に分解する素材を作らなきゃダメだね。
ここからはずっと展望を楽しみながら登るのだが、さすがに空気が薄くなっているのか疲れるのが早い。休憩の間隔が短くなっていく。GIZUMOはこれに備えて携帯酸素を持ってきていた。時折鼻先にシュー、とやるのだが、効いているのかいないのか、その効果は定かではなかった。
展望が奇麗な場所で止まっては周囲の山をデジカメやビデオに収めた。鋸岳、甲斐駒、北岳が見渡せる。登山をはじめて良かった、と思わせる最高の気分である。
しかしここから小仙丈ヶ岳まではけっこうきつかった。というか空気の薄さがかなり応えた。OB2さんがひどくまいっていた。普段からマラソンをするなど、スポーツマンの彼だが思わぬ弱みが出てしまった感じだ。何度か酸素を吸ってもらったりした。本人は「大丈夫、大丈夫、」と頑張っていた。ここは無理をせずに休み休み行くことにした。
10;45、コースタイムを大幅に遅れて小仙丈ヶ岳に到着。ここからは仙丈ヶ岳がよく見える。平標と感じが似ている。目指すゴールを見ながらの登りになるのだ。ここで大休止。ここからの景気も素晴らしいものだった。

ここからも楽なコースではない。延々と登りが続くのだ。OB2さんだけではなく、GIZUMOもかなり苦しくなってきた。持久力が無くなってくるのだ。N友さんはあまり顔に出さないので分からないが、やはりそれなりにきつかったと思う。何度も休憩をとりながら、少しずつ登っていった。途中で雷鳥の親子に出会った。かなり近くまで行っても逃げない。GIZUMOはなんとなく頭の中にこの山の神様の分け御霊?、という感じがして、それから急に元気が出てきた。ずいぶん気の持ち様で違うものだ。
小仙丈カール辺りからの景気は幻想的で、まるで自分が箱庭の中を歩いているような気分である。仙丈ヶ岳の山頂が遠いのか近いのか分からなくなるのだ。以前ここに来たような錯覚にも陥る。なんとも懐かしい気持ちになってしまう。これも空気が薄いせいなのかな…。
12;15、ようやく仙丈ヶ岳山頂に到着。とにかく腰を下ろして休憩した。先客がゆとりでもう食事を終えていた。我々も山頂の一角に腰を下ろして食事の用意をした。OB2さんのリュックからはこの時の為にいろいろなものが出てくる。味噌汁を飲ませてくれるために小さなコンロ、2Lの水、そしてデザートのフルーツゼリーまで出てきたのだ。これは重いはずである。彼がバテた原因はどうやらこれのようだ。気持ちは凄くありがたかったが、OB2さん自体のほうが心配である。

ここからの展望は凄いものだった。しかし南側からはすでに雲が湧いてきて、こちら側はよく見えなかった。木曽御岳などが見れたのではないかと思う。昨日までの天気を思えば我々には充分な景色だった。

さて、食事も済んで、少し体が楽になってきたところでみんなで記念撮影をした。そしてGIZUMOは周辺の探索を始めた。仙丈ヶ岳は甲斐駒ヶ岳のような岩の山頂ではない。しかしここからもかなりの潜象パワーが出ているとしたら、なんらかの仕掛けが造られているはずだ。GIZUMOはこんな推理をしていたのだが、我々が登って来たのと反対方向に明らかに人工的な岩座を発見した。「やっぱりね…、」腹の底で「しめた、」と叫んだ。見れば見るほどいろいろな山で見たのと同じように岩が組まれている。ちかずいて見るときちんと平らにされた床の上に岩が置かれているのだ。この山にもやはりあったのだ。N友さんもOB2さんも実に不審な目でGIZUMOを見ていた。「こんなにはっきり人工的に造られているのにわかんない?、」GIZUMOが岩を指して言ってもN友さんは「ウーン、」と唸るばかりである。OB2さんなどは「そんなのどうでもいいです。」と来たもんだ。確かにこんなことに興味を持たなかったらGIZUMOも同じことを言ったかもしれないな。とにかくここで貴重な撮影をして下山することになった。
ルートは馬の背ヒュッテから藪沢大滝経由である。ちょうど雲が出てきて山頂を覆いはじめた。まさにこの景色を我々に見せてくれる為に晴れていたような感じである。
リュックはだいぶ軽くなったのだがOB2さんの具合がまだよくない。カールを下って仙丈小屋でまたまたダウン。ここで決断した。「N友さん、二人でOB2さんの荷物を持とう、」ということになった。N友さんはキャンプ道具を、GIZUMOは2Lほどの水をそれぞれのリュックに入れた。だいぶ軽くなったはずである。そこからはOB2さんも少しずつ回復していったようだ。
気持ちのいい馬の背の道を過ぎると、後は展望のない道になる。ガスが下から登ってきて渦を巻いている。幻想的な景色である。
14;30、馬の背ヒュッテに到着。中学生の団体が泊まっているようだ。彼等は明日、ここから山頂に行って我々が登ったルートを下るのだろう。楽しそうだなぁ…。GIZUMOもさすがにリュックが重くて、自分の水とOB2さんの水をだいぶ捨ててしまった。後は下りだけなのでそんなに要らないだろう。
ここからの下りの長かったこと。渓流に沿った岩場が多く、一定の下りではないのが疲れを呼んだかもしれない。とにかく降りても降りても終わらない、といった気持ちになってしまった。スタミナの点ではこの中で一番GIZUMOがないだろうな。いざ疲れがくると動けなくなってしまう。ところがこの時間にこのルートを登ってくる女性がいたのである。N友さんは馬の背ヒュッテまで行くんだろう、と推理したが、エライこっちゃ。
16;30、大平山荘にたどり着く。GIZUMOは足がボロボロである。ここで腰を下ろしたらもう歩きたくない心境だった。この山荘の奥さんが気さくな人で、N友さんの話に気持ちよく答えていた。OB2さんもほとんど回復してニヤニヤしている。GIZUMOだけがバテていた。

17;00、長衛荘に帰還。山小屋の兄ちゃんに「ボロボロですね。」と言われてしまった。ビールを飲んで順番に食事を済ませる。小屋の内部は真ん中に通路があって両側に布団が敷いてある。足下にリュックを置いてみんな並んで寝るのだ。GIZUMOは昨日眠ってないのもあって横になるとすぐに寝てしまった。

翌日は五時前に起床。N友さんに起こされて渋々起き上がった。なんだか疲れがとれていない。だるいのだ。OB2さんは元気を回復している。この違いはなんだ?。
ほとんどの人が起きだした。洗面を終えて出発の準備である。昨日のことがあったので荷物は極力少なくして小さなリュックで行くことにした。
5;15、空がうっすら明るくなった頃出掛けた。長衛荘のすぐ裏から双児山に登るのだ。仙丈と同じく、樹林体の単調な登りである。GIZUMOは体に重さを感じながらも登っていった。このメンバーは実に物静かで、これといった話題もなく黙々と登る感じである。GIZUMOが先頭でペースメーカーなのだが、次第に足が重くなってきた。なんだか気分が乗らないのである。そこで思い切って、「相談なんだけど…、」と切り出した。「自分としてはどうしても登り切る自信がないのでここから引き返したい、二人は続けて登って欲しい、」と言うことを告げた。最初は「一人が降りるのならみんな降りよう、」と言っていたN友さんだが、それではGIZUMOが心苦しい。二人ともせっかくここまで来たんだから甲斐駒を制覇して欲しい、と告げた。けっきょく納得してくれて、GIZUMOだけ先に下山することになった。
下山の足は軽かった。どう説明すればいいのだろう。今日は呼ばれていないのだ。そんな感じなのだ。確かに体力が回復していないのもあるのだが、それでも、もし呼ばれていたらもっと気持ちが違うだろう。そんなことをあれこれ考えながら人気のない長衛荘に戻った。
人気のない山小屋の軒先でしばらくぼんやりしていた。確かに敗北感があって情けない気持ちではあったが、どうしても腹の底から「行きたい、」という衝動が湧いてこないのだ。仕方ない。ここで彼等が下りてくるのをずっと待つしかないのかぁ…、と覚悟した。しかしこれほど退屈なことはないのである。一人でどこかに行くわけにもいかないし、どうしたらいいのだろう…。
そうこうしていると朝一番のバスが到着した。みんな天気のことなどを口にしながらしばらくはガヤガヤと賑やかだったが、彼等が登山口に行ってしまうと再び静寂が戻った。「あのバスで下りよう、」と決心した。書置きを残して下りのバスに乗った。
車窓から駒ヶ岳を見ると真っ白い雲に覆われている「あの二人、大丈夫かなぁ…、」と気になった。この状態を見て、「呼ばれていなかったんだ。」という実感が凄く湧いてきた。たぶん、行っても良い絵は撮れなかっただろう。それでも敗退した、という後ろめたさに気持ちは沈みがちだった。
早朝の仙流荘前に到着して、仕方がないので高遠の町を見物することにした。こじんまりとした町だが落ち着いた感じで、やはり小さな城下町という雰囲気がGIZUMOは好きである。そこで日帰り温泉「さくらの湯」を発見。十時開店なのでその間、高遠城を見学することにした。
人気のない城跡は見事な桜が並ぶ上品な庭園のような公園である。こんな場所をぶらりと散策をしていると、非常に贅沢な時間を独占している気分である。花見の時分は見事だろうなぁ、と想像しながら30分ほど歩き回った。
その後、「さくらの湯」で汗を流して休憩所で寝そべっているとOB2さんから携帯に連絡があった。まだ11時なのに仙流荘に戻っているという。急いで迎えにいった。疲れた顔の二人がバス停で待っていた。「いやあ、ひどい霧で周りが真っ白でなんにも見えなかったよ、」とN友さん。駒津峰まで行って仙水峠経由で帰ってきたのだそうだ。バスはないはずなのだが、と思ったら、中学生の団体に混ぜてもらったという。やはり駄目だったか…。でも二人の顔は満足そうであった。
再び全員で「さくらの湯」で汗を流し、帰途についた。一時頃、白州のサントリー工場の中のレストランで一杯飲んだ。もちろん運転のGIZUMOはコーラだけだ。自家製のソーセージなど、一度食べてみたかったのだ。二人ともいい雰囲気のレストランに気分よさそうである。
国道20号線に出て振り返ると、甲斐駒が奇麗に顔を出していた。もう少しゆっくり登っていたら、もしかしたら今頃あそこに立っていたかもしれない。しかし、あの雲の中ではやはり行けなかっただろうな。なんとなく「いつかここにおいで…、」と微笑んでいるように見えた。

俗に、この二つの山を譬えて、甲斐駒ヶ岳は男性的で仙丈ヶ岳は女性的だと評する。登山ルートの厳しさからそんな風に言われるのだと思うのだが、GIZUMOはこの二つの山の神様はどうやら逆に感じる。仙丈ヶ岳の神は男性で、甲斐駒ヶ岳の神は女性のように感じる。どうでもいい話かもしれないが、ひょっとして同じことを思っている人達がいるのではないだろうか。どちらにしても山の神はそれを感じるものには優しいのである。来年はぜひ、甲斐駒ヶ岳の招きに応じようと思っている。

