★扇山、百蔵山縦走

2004.04.05

 3月中に予定していた山行きが三回も天候悪化で中止になっていた。GIZUMOとしてはもう我慢の限界である。今回の山行きはちょっとくらいの雨でも、GIZUMO一人でも決行する覚悟でいた。今までIZUMO氏が出かける直前に電話で言ってきた「K氏が雨具を持っていないから…、」とか「午後から雨がひどくなりそうです……、」などという言い訳はもう一切聞かないのである。この日も前日までこちらは雨だった。扇山のある山梨方面は雪だったという情報もある。しかし今日はこのまま天気は回復し、朝から晴天という予報である。中止にする理由は一つもない。
 早朝六時にIZUMO氏の車でK氏とIZUMO氏が迎えに来た。今日は上野原の先ということで、高速を使うのでK氏にこちらまで来てもらったのだ。天気は上々である。道には昨夜の雨がまだ少し残っているが、見る見る乾いていくようだった。
 八王子から高速に乗ってしばらく行くと高尾の山々が見えてくる。それが真っ白なのである。「おいおい、GIZUMOさん真っ白ですよ、」IZUMO氏が「どうします?、」と言いたげに呟いている。しかし山にちかずくにつれ、雪は木々についているだけで、山全体を覆っているのではないのがよく見える。「これぐらいなら歩けるね、」とGIZUMOは判断したのだった。しかしとても不思議な光景である。山はまだ桜は咲いていないが、春めいた木々をクリスマスツリーの綿のような雪が山を飾っているのだ。IZUMO氏は早速デジカメで撮影していた。
 中央道を上野原でおりて中央本線の鳥沢駅を目指して国道20号線をいく。駅の直前にちょっと分かりにくいのだが大月カントリーにいく道を鋭角に右折するのである。この道は電車で帰ってきて歩いて登る予定の道である。かなり急な坂が続く。車で十五分ほど登ると扇山の登山口が見えてくる。下から見ると木々の葉に雪がたくさんついている。
 登山道入口の駐車場に車を停めて外に出るとやはり山である、少し肌寒い。GIZUMOは上はともかく、下は薄いズボン一枚で来たことを後悔していた。登山口を覗くと次第に気温が上昇していて雪が解けて雨のような状態である。ルートはドロドロである。「失敗したなぁ……、」その時GIZUMOの頭にインスピレーションが訪れた。「そうだ、この前買ったばかりのレインウェアの下をはけばいいのだ。」これは良いアイデアだった。これを着れば泥もよけられるし寒さもしのげる。一石二鳥である。
 梨の木平の扇山登山口にはきれいなトイレや休憩所が整備されている。登山者ポストがあり、ここでIZUMO氏が名前を書き込んでいる。「山に入る時は必ず書き込んで下さいね。」GIZUMOはこういうことも知らなかった。基本的なことを教えてくれるIZUMO氏に感謝である。
 登山道は杉の林の中を登っていくのだが、葉に着いた雪が溶けて雨のようだ。GIZUMOは帽子を忘れてしまったのでタオルでもかぶろうかと思っていたのだが、物持ちのK氏が貸してくれるという。色といい形といい「スズメ」を連想させる帽子で、GIZUMOとしては恥ずかしかったが、背に腹はかえられず被ることにした。もちろん二人はGIZUMOを見て大笑いしている。
 道はとても登りやすいので三人は高度を上げるにつれて変化する雪景色をゆっくり楽しみながら歩いた。高い木の枝から落ちる水滴に陽が差してキラキラ輝いている。ダイヤモンドダストのようだ我々は三脚を出して記念写真を撮りまくった。
 そうこうしているうちに水呑み杉に来た。登り初めて一時間二十分である。晴れた日だともっとよく分かるのだろうが、杉のどこから水が出ているのかよく分からない。
 高度が上がるとますます雪は深くなり、冬山の情景である。気温は15℃くらい、決して寒くはない。9:30、百蔵山との分岐に出た。道は真っ白である。誰も踏んでいない新雪に鹿の足跡を発見。皆かなり嬉しそうである。足跡を追うと、どうやら二頭いたようだ。ここでもデジカメを撮りまくり、かなり遊んでしまった。
 道を左にとり、いよいよ扇山に向かった。道は緩やかで、キュッ、キュッ、と新雪を踏む音を楽しみながら15分も登ると扇山山頂に出た。

 9:55、扇山山頂は広々としていて、本来ならば青い草原が広がっているのだろうが、この日は雪原である。汚れのない雪に足跡をつけるのはもったいないような気もするが、子供のようにワクワクした気分で中央広場まで進んだ。
 ここでまた写真など撮りまくったのだが、最初雲で見えなかった富士山が次第に晴れて雲の上に見事な姿を浮かび上がらせた。この富士山もまた絶景である。

 真っ白な雪を散々踏み荒らした頃、年配の御夫婦が来た。入れ代わるように我々は百蔵山を目指した。
 雪道も下りになると滑るので難儀である。普段あまり使わない腰や足の筋肉をフルに使ってバランスをとらねばならないのでかなりエネルギーを消費する。
 分岐を過ぎてすぐのピークが大久保山。ここでIZUMO氏が「シャリ負けするから、」と言ってアンドーナツを食べた。山に登るときはダイエット中のGIZUMOも朝食のほかにサンドイッチなど余計に食べることにしている。

 さて、ここから先はドンドン下りである。道の雪は溶けてドロドロの滑りやすい状態で、いちおう登山靴のGIZUMOとIZUMO氏はともかくK氏はこのままでは歩けない。GIZUMOはストックを出してK氏に渡したのであった。
 扇山は1138m、百蔵山は1003m、ほぼ並行な尾根道だと思っていたのにいつまでも下りが続く。その分確実に登らなければならないので気が気ではない。およそ30分下ったところでようやく底が見えた。とりあえず一息つくことにした。
 時間は11:25、そろそろお昼時なのでK氏が「腹減ったー、」と言い出した。しかしせっかくここまで来たのだから百蔵山山頂まで頑張ることにした。
 まずは緩やかな登りが続く。ダラダラと登っていくうちにGIZUMOの腹もグーグー鳴りだしたが、それほど空腹感はない。そのうちIZUMO氏も「腹ヘッタァー、」と言い出した。「さっきアンドーナツ食べてたでしょ、あれ500kcはあるんじゃないの?。」とGIZUMO。「いえ、実は735kcあるんですよ。」「エエーッ!!、じゃあ、カツ丼一杯分じゃないの!。」GIZUMOが叫ぶと「そう言われると思って黙ってたんですよ。」とIZUMO氏が告白。「でも腹減りましたねぇ……。」
 やがて山頂直前の直登が始まった。「アー、腹へったぁー、」と言う二人の声を背にGIZUMOは黙々と登った。この登りはかなりきつい。登りながらGIZUMOは三頭山を思い出していた。鞘口峠から休憩所までのK氏やO氏が具合が悪くなってしまったあの旧登りだ。こういう辛い登りの時、GIZUMOは以前登った山を想定すると気が楽になるのは何故だろう。それは、大体の予想がつくからだろうと思うのだ。辛ければ辛いほど体験は役に立つのである。
 20分ほどヒーヒー言いながら登ってようやく山頂に出た。12:40、二人の空腹は限界だったようで、景色の開けた南面にてんでに座ってさっそく弁当を広げた。山頂は広々していて展望も好い。右に御正体山、三つ峠山に挟まれて富士山が見える。相撲の三役揃い踏みのようである。正面から左にかけて丹沢の山々が連なり、眼下には猿橋の町が箱庭のように見えている。食事を終えたGIZUMOが双眼鏡で町を観察。正面に山を切り崩した分譲住宅地ができている。ここから見ると人間が自然を切り崩している様がなんとも哀しく感じる。町を通過する電車がNゲージのように見える。これは鉄道オタクのIZUMO氏にはこたえられない光景だろう。
 小一時間山頂で遊んで、13:45、下山開始。猿橋へのルートは二つあるが、手前のルートを選んだ。どちらもコースタイムは一時間とあるがとてもその時間で行けるとは思えない。しかし、道は歩きやすく、雪もすっかり乾いて辺りは春爛漫である。
 一時間歩いてベンチで一休み。五分ほどで腰をあげたのだがここまでストックを使用していたK氏がなんとベンチにストックを忘れたのである。IZUMO氏が気付いて事無きを得たが、感謝というものを知らんのか!!、とGIZUMOは怒ったのであった。
 そこからすぐに住宅地に出た。桜や桃が満開で又々別の国に来たようだ。庭先には鯉幟が靡いている。平和で静かな昼下がりの町並みである。山行きの楽しみはなにも山の中を歩くだけではない。のどかな田舎の家を見ながら、いつかこんな家に住みたいね、と夢を膨らませるのも楽しみの一つなのだ。「一坪いくらだから買えそうだ、」とか「ここから通うのは何時間かかる、」とか話は尽きない。
 結局二時間かかって猿橋駅に到着。けっこう足に来ているが、まだ歩けそうな感じもする。中央線に一駅乗って鳥沢駅に到着。「さて、どうするか?、」といったところでK氏の「タクシーで行きましょう、」の一言で決定。なんとマニュアルのタクシーに乗り込んで梨の木平に向かった。「ヤッパこんな坂道歩けないよねぇ……、」とGIZUMOはつくづく思ったであった。
 出発点の登山道入口は朝の雪が嘘のようにすっかり消えていた。まさに一日で二つの季節を体験したのである。

 さて、帰りの温泉は隠れた名湯「君恋温泉」に決めた。GIZUMOが携帯で予約を入れると「どうぞ、」ということだった。民間の温泉だと平日休んでいたりする。あるいは行ったところで断られたりするので予約は必要である。
 車で十分ほど犬目宿方面に走ると右側に君恋温泉が出てくる。ちょっと分かりづらいので注意してみていないと通りすぎてしまう。ちょっと大きめの民家のようである。「スイマセーン、」玄関で声をかけるが返事がない。以前の相模湖畔の民間温泉での悪夢が皆の頭をよぎった。予約したにもかかわらず電気も点けてない真っ暗な玄関で声をかけても誰も出てこない。仕方なく奥に入って声をかけると「なにしに来たの?、」とでも言いたげな顔でお爺さんが出てきていぶかしまれたあの嫌な体験である。君恋温泉でも同じ目にあうのか。玄関の横に「用のある方はベルを押して下さい」と書いてある。「大丈夫かなぁ……、」と思いながらGIZUMOがボタンを押すと、「ハーイ、」と女の人の声がした。全員ホッ、としたのだった。
 たいていこういう時はかなりのお婆さんが出てくるのだが、あにはからんや若い奥さん風の人が出てきた。「一人500円です。」と入湯料を徴収。我々を奥に案内した。「こちらにどうぞ、」美人なんだがあまり愛想のない奥さんが風呂場を指すとさっさと二階に行きそうになる。ここでいつも問題になるシャンプーである。GIZUMOが「シャンプーはついてますか?、」と聞くと「いいえ、」という。顔を見合わせて困ってしまった。「小さいシャンプーなら売ってますけど…。」というので買うことにした。奥さんが二階にとりにいった。横には休憩室らしき座敷があったので、戻ってきた奥さんに「ここは使ってもいいんですか?、」と聞くと「はい、どうぞ、」と言うばかり。「見て、」K氏が指差す風呂場の入口を見上げると「女湯」と書いてある。「我々だけだからいいんじゃないんですか、」とIZUMO氏がクールに分析してみせた。
 よくよく見ると正面の男湯には脱衣場がない。浴槽は同じ規模のようである。とにかく湯に入ることにした。浴場は六畳くらいだろうか。洗い場は二つしかない。お湯はかなり熱い。GIZUMOがうめている間にK氏とIZUMO氏は軽く体を流していた。たぶん源泉そのままなのだと思う。好い湯加減にして浸かる。しばらくすると体がほかほかしてくる。これは確かに好い湯である。体を洗ってもう一度入った時この湯の良さがよく分かる。「アー、好い湯ですねぇ……、」みんな思わず呟いてしまう。
 一足先にあがったGIZUMOはどうにも我慢ができず入口にあった販売機でビールを買って休憩室に入った。するとトントントン、と二階から誰かが降りてくる。さっきの奥さんがなにか持って入ってきた。「これ、サービスです、」と煮物を置いた。「ヘー、これは何ですか?、」GIZUMOが聞き返すと「コンニャクの煮しめです。」と初めて可愛い笑顔を見せてくれた。かなりの美人なのである。この笑顔を見たのはGIZUMOだけ……、ウフフフフ。
 みんなでおいしいコンニャクをご馳走になり帰路についた。この日はまさに一日で二つの季節を味った。雪景色に心躍らせ、桜や桃の花を堪能、二つの山を征服して最後には好い温泉と美人の奥さん、美味しいコンニャクと本当に至極の一日であった。これだから山行きは止められない。

IZUMO氏の扇山・百蔵山のページ

Copyright.2 000-2004 Good Weather Studio.all rights reserved.