★御岳山、大岳山に挑戦する。
第ニ部

 瑞牆山に行った翌週の10月7日、再び大岳山に行くことになった。今回は登山部の隊長、K氏が一緒である。K氏とGIZUMOの間にはいつからとなくライバル意識が芽生え、互いに密かに負けたくないという気持ちを隠しているのである。だからK氏はGIZUMOが挑戦する山にはたいてい付き合ってくれるのだが、内心後れをとりたくないらしい。というわけで今回の大岳山も二つ返事で付き合ってくれたのだ。


 朝九時にK氏がベンツで迎えに来てくれた。天気は曇りがちで気温も低いが、山登りにはちょうど好い気候である。ドライブは順調で御岳山ケーブル乗り場には11時に到着。平日なので駐車場はガラガラ。これまたガラガラのケーブルカーに乗ると、今日は迷わず神社に向かった。
 神社までは20分ほどだがここの登りは馬鹿にできない。K氏はけっこう息を切らせている。参拝もカットして大岳山方面へ直行。今日は展望台の茶店も閉まっている。休まず前回昼食をとった休憩所まで歩いた。道は平坦で歩きやすく、秋の気配を楽しみながら進んだ。実はK氏は庭造りが趣味で花にも詳しい。道端に咲いている可憐な花などを見ながら、アーダコーダ言いながらの余裕のハイキングである。
 ケーブルを降りて40分ほどで休憩所に着いた。ここで小休止。ここからGIZUMOにとっても未知のルートに入った。道標によると大岳山まで80分。そう長い方でもない。
 休憩所の横からはかなり急な登りになる。整備されていて歩きやすいのだが勾配がかなり急である。ほとんど休みのない登りが30分近く続く。あまりのきつさに所々一休(ひとやすみのことだが、我々はイッキュウと呼んでいる)を入れながらようやく登り切ると、高岩山への分岐になる芥場峠に出た。右にとっていくと、ここからは穏やかな道が少し続く。そして奥の院から道と合流すると再び険しい登りになっていく。
 坂が急になると共にゴツゴツした岩が多くなってくる。ルートもところどころ岩をよじ登るようになってくる。10分ほど行ったところで下山してくる小学生(たぶん六年生だと思う。)の一団とすれちがった。大きな岩の道を危なっかしそうに下りてくる。「こんにちわぁー、」元気に声をかけてくれる子もいれば無言で通りすぎる子もいる。「あとどれくらい?、」GIZUMOが声をかけると「まだけっこうありますよー、」と男の子が教えてくれた。最後にちょっと太った子が先生に抱えられるようにして下りてきた。やっぱり体重が重いと膝への負担が大きくなってダウンしてしまうんだよな。この子もこれを機に痩せる決心がつけばよいのだが……、などと余計な感想を抱きながらGIZUMOは見送った。
 ここから先の道は面白いといえば面白いが、かなり険しいので体力を消耗する。岩場が続き、鎖を伝ったり階段をよじ登ったり、景色が瑞牆山に似てくる。実はK氏の初登山が瑞牆山だったのである。二年ほど前にIZUMO氏に連れていかれたのだそうだが、最初の山があのきつい瑞牆山だったとは驚いた。「よく登ったねぇ、」と言うとほとんど景色など記憶にないほど辛かったという。K氏は基本的にGIZUMOなどよりも体力があるので登れたのだろう。もしGIZUMOだったら登り切れなかっただろうし、たぶん二度と山になど登らなくなっていたであろう。たいしたもんである。
 30分ほど登っていくとちょっとした広場に出た。よく見るとなにやら山小屋が立っている。大岳山荘である。人気はないようだ。いつも思うのだが、こんな場所にどうやって家を建てるのか、つくづく感心してしまう。
 その横に緑色の大鳥居がある。いよいよここから大岳山山頂に向かうのだ。鳥居の下で柏手を打って山の神様に御挨拶をして登り始めた。ここからの登りは半端ではない。瑞牆山も真っ青、というくらい険しい。GIZUMOはどうやら階段昇りのトレーニングの成果があって、グイグイ登っていけるのだが、K氏は足が上がらなくなってきたらしい。ほとんど岩登りである。だから段差が大きいので足を高く上げなければならない。最後に来てのきつい岩登りは辛いものがある。K氏のペースが落ちて、GIZUMOは立ち止まりながら「もう少しだよ、」「もうすぐそこだよ、」と何度も声をかけながらK氏を励ました。ヒーヒーハーハー言いながらもK氏は登ってくるのでそこは安心できる。完全にダウンされたらお手上げである。
 20分も登っただろうか、ようやく山頂が見えてきた。死ぬの生きるの言いながらもK氏も揚々登り切った。13:15。「ヤッタァー!、」山頂からの展望を目にしてGIZUMOは思わず声を挙げてしまった。K氏は山頂に着くと転がるように座り込んでしまった。しばらく歓声もなく、息を整えていた。汗で濡れたシャツを脱いで裸になってほてりを静めていた。その間にGIZUMOもTシャツを着替え、弁当を出したりしていた。
 落ち着いたところでお弁当を食べながら景色を楽しむ。目の前に御前山が大きく見える。ここからは奥多摩の山が折り重なってみえるだけであまり遠くの町まで見える、というわけではない。実は到着したときに誰か人影があったのだがすれ違うようにいなくなってしまったので、しばらく山頂はGIZUMOとK氏だけだったのだが、弁当を食べ終わる頃元気そうなおじさんがやってきた。反対側から来たので「どちらから来たんですか?、」と声をかけたら「奥多摩から山を越えてきました。」という。「ヘェー、」GIZUMO達が驚いていると、おじさんは足踏みをしながら「ここで山を歩くレースがあるんでそのトレーニングをしているのだ。」と教えてくれた。なんでも奥多摩の山72キロを夜通し歩く鉄人レースがあるんだそうでこれまたビックリである。昼の一時に出発ということだから、真夜中に山道を走り抜けようというのだ。早い人は九時間で完走するという。まさに忍者である。「それじゃ、お先に、」おじさんは風のようにスットンで行った。


 二時になったので我々も下山することにした。下りになるとK氏も元気を取り戻し、GIZUMOを抜いてグングン行く。アッという間に奥の院への分岐に出た。同じ道を行くのはつまらないので奥の院経由で帰ることにした。脇道に入るとすぐに登りになる。とたんにK氏の足取りが重くなってしまう。GIZUMOも経験があるが、ほんとに足が上がらなくなってしまうのである。でも、行きに比べればなんて事ない登りである。すぐに細い下りになる。
 奥の院には直接行かず、巻道という道標に従って下っていったのだが、どこをどう間違えたのかとんでもない下り道に出てしまった。杉の植林地帯の中をやっと道らしき跡があるところを滑るように降りるのだ。「凄いねぇ、」GIZUMOもK氏もなかなか終わらない坂にうんざりしていた。これだけの下りだからかなりルートを短縮しているのは確かだが、険しい昇りを経た膝にはきついルートである。20分くらい下っただろうか、ようやく見慣れた遊歩道に出た。見上げてみてなおさら思ったが、もしこの道を登る人がいるとしたら、それは修験道の行者とか天狗くらいだろうと思う。たぶん正式のルートではないだろう。
 展望台から御岳神社を順調に抜けて例の蜂蜜を売っているお土産屋に到着。閉まっているようにも見えたけど戸を開けたら空いていたのでほっとする。GIZUMOとしては前の蜂蜜はちょっと割高な感じがしたので、たぶんもっとお買い得があると踏んでいたのだが、思惑通り倍入って千円というのを発見。GIZUMOが三つ、K氏も一つ買って帰ることができた。
 ケーブル乗り場で恒例のソフトを食べる。山頂でのていたらく以来K氏はなんとなく元気がない。しかしGIZUMOも、いつものことだが基礎体力がないので下山してくるごとに疲れが出てきてしまう。ここでK氏がまだ半分も食べていないソフトをおっことしてしまう。「アリャー、」なんか気の毒で声もかけられない感じであった。駐車場に着く頃にはGIZUMOはぼろぼろになっていた。もう車の運転もできないほど。それに比べて基礎体力の強いK氏は元気が残っている。次第に雰囲気が逆転していく。
 帰りは高尾のフロッピーによった。風呂に入る前に体重計に乗ったのだが、K氏は71キロを切っていた。その途端K氏のご機嫌は復活。湯船では別人のように饒舌になってGIZUMOを攻撃開始。なんだ、この変わりようは!。
 なにはともあれK氏の機嫌も直って無事に大岳山も制覇した。しかしGIZUMOはこの連続登山で疲れがピークに達してしまった。翌日も体が重く、なかなか回復しない。何故こうまでして山に登るのか。実は瑞牆山でも息子に聞かれた質問だ。この答えは次回書くことにして、再び自問自答しつつ筆を置こうと思う。やれやれ……。

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