★苗場山・山頂湿原に神の神籬(ひもろぎ)が点在する地上の天国
2006/9/21〜22

 IZUMO休憩隊としてはなんと一年振り以上の登山である。時が経つのは早いとはいえ、そんなに行ってなかったとは…。今回のメンバーはIZUMO隊長、K氏、Mr.P、GIZUMOの四人である。女好きというMr.Pの参加でいつも三枚目にされてしまうK氏は矛先が変わるのではないか、と期待しているようだ。真面目なIZUMO隊長が堕落の権化Mr.Pとどう付き合うのか、実はGIZUMOも楽しみにしているのだ。
 そんな思惑を秘めながら、GIZUMOの車で三人を拾い、あきるのICから県央道、関越で湯沢ICに向かった。GIZUMOにとっては今年三度目の湯沢ICである。一番最初に平標山、苗場山連チャンという計画を立てたのだが、その時は発熱で敗退した。その後平標山はMr.Pと制覇したが、けっきょく二つとも行くことになった。まあ、初志貫徹ということで文句はないが、一夏に同じところに三回も来るとは思わなかった。

 今回はIZUMO隊長の提案で苗場山頂に一泊する予定である。その方が精神的にものんびり登れるし、山頂の湿原をじっくり楽しめる。天気が良ければ星空も楽しめるかもしれない。そんなことを期待してしまうのだ。

 既に車中でMr.Pが槍玉にあがって、K氏は三枚目のポジションを脱しはじめていた。そんな中、九時には和田小屋下の駐車場に着いてしまった。天気はまあまあである。上空に雲があるが日差しもあり、気持ちのいい状態だ。ここでいつものようにグズグズと着替えをし、九時二十分に出発した。

 駐車場からユルユルした登りを少し行くと、広い斜面に出る。なんとなく高原ぽくて開放的な気分になる。リフトの駅を過ぎて約30分で和田小屋に到着。ここで休憩に入る。
 ここから登山道が始まる。行く先の山に柏手を打って軽く御挨拶をして山に入った。最初はゆるい坂だが、すぐにそこそこの登りになる。樹林帯の中なので展望はないが、けっこう大きな石を登ったりして変化がある。久し振りの登山なので息が上がるが、ここは頑張って30分以上登った。
 六合目付近で休憩。いつも最初は苦しいのだが、エンジンがかかるとだいぶ楽になってくる。ちょうどその境目くらいの感じである。大休止にせずすぐに出発。再び急登りに挑む。
 岩場が続くかなり厳しい登りをGIZUMOはけっこう早いペースで登ってしまうらしい。Mr.PとK氏が遅れ気味になってしまう。自分ではそんなつもりはないのだが困ったものだ。などと言いながら20分置きに休憩を入れて、11時過ぎに下の芝に着いてしまった。コースタイムより少し早い。
 ずっと樹林帯が続いていたので少し開けた小さな湿原や木道がやけに清々しい。ここで休止。Mr.Pはさっそくベンチに寝そべっている。
 ここからは相変わらず坂はきついが転々と目標があるので気持ちが違う。30分ほど頑張ると又々開けた湿原が出てくる「中の芝」である。ここはさっきよりもずいぶん開けていて木製の木休憩場所も作られている。ここでまたまた大休止。
 ここまでコースタイム二時間半の登りを約三時間で来た。我々としてはいいペースだがMr.P、K氏はだいぶ疲れてしまったようだ。この先はもう急ぐ必要はないのだが、一度下って登り返さなければならない。IZUMO隊長はその辺りを一番心配しているようだ。ここでゆっくり昼食をとって、12;30、再び腰を上げた。
 次の目標は神楽ヶ峰である。登りはかなり緩くなり、Mr.Pの無駄話に花を咲かせながらの道行きでアッという間に上の芝を通り過ぎてしまった。それでも30分以上歩き続けたので神楽ヶ峰に着いたときはいささか疲れていた。「せっかくだから登っていきましょう、」というIZUMO隊長の言葉に、神楽ヶ峰山頂の看板を登ると、わずか数メートルで狭い山頂に出た。だいぶ雲が多くなってきて展望はない。面白くもなんともないのですぐに降りて腰をおろした。
 ここからはしばらく下りが続く。ようやく苗場山が見えるところになるのだが、今日は山頂が雲に隠れて見えない。巨大な壁のように見えるだけである。十五分ほどで唯一の水場「雷清水」に到着。ここで苗場山から降りてくる人達と出会ってちょっとした交流がある。犬を連れた夫婦にMr.Pがしきりに話しかけていた。また、駐車場で見かけた女性の単独登山者がもう登って引き返してきた。見るからになにかのインストラクターをやっていそうなキビキビした感じの人で、「頑張って下さい、」とだらしなさそうな親父達を笑って見送ってくれた。
 さて、いよいよ本日のハイライトである。ここから苗場湿原までははっきり言って切り立った崖を登るようなものなのだ。実際、視界に入るところだけでもかなり厳しそうである。その上は雲に隠れていて、いったいどの辺まで続いているのかは分からない。ここまでの登りでかなり疲れている。でも、時間をかけてゆっくり登れば行けないことはない。GIZUMOが先頭で歩きだした。
 お花畑とある看板のところが底である。ここからは道の両側に谷が展開していて幻想的な景色が見れるはずなのだが、今日は曇っていてなにも見えない。お花畑といってもこの時期、草ばかりでピンとこない。
 ここからは急な登りが続く。GIZUMOもかなり息が切れるが、こういうルートにはわりと強いらしくグイグイ登ってしまう。一番苦しそうなのはK氏で、みんなあまり休みたいとは言わないが、無理をせず、少し登っては足を止めるようにした。次第に雲が濃くなっていって、周囲の景色は全く見えない。これがかえって良かったようだ。Mr.PとK氏はかなり息が挙がっていたが、これがよく晴れていたら二人とも「帰る、」と言い出したかもしれない…。
 十五分、二十分と休止を入れて登っていくと、急に岩場になる。こうなるとゴールは近いのだ。「もうすぐだよぉ、」と声をかけつつ振り返る。K氏はこういうGIZUMOの言葉は絶対に信じないのだそうだ。まあ、確かに半分は嘘だからね。
 15;10、ついに苗場湿原に出た。「着いたぞぉー、」と声をかける。もう返事もなくヘトヘトになったK氏がようやく登ってきた。しかし湿原は霧に覆われてほとんど見渡せない。十数メートル先くらいは分かるので、湿原に敷かれた木道を辿っていけば山小屋に着けるはずだ。
 山頂の湿原をワクワクしながら歩く。霧の中に小さな池が出てきたり、巨大な岩が見えたりする。湿原独特の清涼な空気が好きである。苗場山頂には二つの山小屋がある。一つは遊仙閣といい苗場山頂のすぐ近くにある。その隣に「苗場自然体験交流センター」というところがある。そこが本日我々が泊まる山小屋である。名前からしてどんなところなのか想像がつかない。
 しばらく歩くと遊仙閣がうっすら見えてきた。どうやらこの時期はお休みらしく人の気配がない。小屋の裏手に出ると「苗場山山頂」という標識がある。とりあえずここで証拠写真を撮っておく。そこから木道を伝ってすぐのところに目的地があった。

 15;20、山小屋に到着。やれやれである。今日は我々のほかにアベックの登山者が一組いるだけである。いろいろとホームページなどでこの「苗場自然体験交流センター」(長いので以後交流センターと略します。)を調べても詳しい情報が出てこない。そこで今回は内部を公開します。寝るところはかなり広く、木組みで二階建てになっている。まだ新しいのか清潔感がある。食堂は三十人ほど座れるだろうか。トイレも大きくて清潔です。IZUMO氏によると、県の職員と思われる男性が二人で経営しているようです。居心地のいい山小屋だと思う。

 夕食まで時間があるのでしばらく外を散策してみた。霧の中なので遠くを見通せないのがかえって幻想的だったりして。今夜から明日にかけて晴れてくれることを山の神様にお願いした。
 また、交流センターの裏手、北西方向になるのかな、に五分ほど下ると行き止まりの崖になる。実はそこでしか携帯が繋がらないのである。どうしても家族に連絡を入れなければならないK氏に付き合ってそこまで行くと、長野方面の展望があって面白かった。晴れていれば見飽きない景色だと思う。
 夕食時にGIZUMOは当然ビールを飲み、その後は持ってきた柿の種を肴にウィスキーをダラダラ飲んでいた。しばらくしてから外に出てみるとなんと満天の星が広がっていた。みんなを呼んでしばらく空を見上げていた。これが山小屋に泊まる楽しみの一つである。しかし寒くて、そう長い時間見てはいられなかった。
 みんなはすぐに床に就いたが、GIZUMOは一人でダラダラ飲んでいた。そのうちアベックの二人と九時頃まで話し込んでしまった。話の内容はあまり記憶にないのが怖い。
 朝、四時過ぎにGIZUMOは目が醒めた。まだ暗く、山小屋の電気も消えたままだ。外に出てみると一面の靄である。「こりゃ、今日も駄目かなぁ…、」と一瞬思った。もう眠くもないので懐中電灯の明かりで食堂に飾られている写真や記事を丹念に見ていた。寒さはそれほどでもなく、ストーブ無しでも大丈夫たった。
 5;20、空が明るくなってきた。窓から覗くと靄が晴れている。外に出ると周囲の山の頭がうっすら見える。たぶん雲は1500m以下にあって、その上は晴れてきたのである。まさに2000mの山頂ならではの素晴らしい景色が広がっている。GIZUMOはさっそくデジカメで周囲を撮った。まだ誰も起きてこない、GIZUMOだけが一人占めの清々しい朝の空気である。なんて気分が好いんだろう。山小屋のサンダルを突っ掛けて周囲の散策も楽しく、可憐な高山植物もお早うの声をかけてくれるような気がした。
六時過ぎに朝食を済ませ、全員で湿原散策に出た。まず山小屋裏の展望を見に行った。雲海の中に浮かぶ島のように鳥甲山が見える。雲海の遥か彼方には北アルプスの稜線らしきものが見える。IZUMO隊長とあれこれ言いながらいつまでも飽きずにこの幻想的な景気を見ていた。

 7;20、いよいよ湿原を歩きに出掛けた。山小屋でもらった山頂地図を頼りに苗場山神社を目指すことにした。次第に空は雲が高い秋の景色になってきた。風もなく、絶好のコンディションである。小さな池が点在する湿原を歩きながら、GIZUMOは遥か昔のことを考えていた。歴史以前の、縄文の頃、人々はやはりこの場所に来ていただろうし、このデリケートな自然とどう付き合っていたのだろう。所々に石を配置したような場所がある。たぶんここは神と交流した祭祇場の跡だと思う。そんな目で見ていくと自然がそのまま残っている湿原世界はまさにタイムマシーンのようにGIZUMOを古代世界に導いてくれるようだった。
 ブラブラ立ち止まりつつ30分ほど歩くと苗場山神社に着いた。思った通り巨石の上に真新しい小さな社が建てられている。この巨石は苗場山の神が降りる神籬である。その上に神が宿る社をしつらえてある。これは正に古代の神様信仰をそのまま形にしているわけだ。巨石に手を触れて神の存在を思い、柏手を打って拝んだ。ここが神の神籬なら必ず祭祇場があるはずだ、と思って裏に回る。
 ここは小山になっていて下は湿原が広がっている。振り返るとちょうど巨石の真裏に石を配置したサークル状の場所があった。「思った通りだ。」やはりここでも縄文人達は神と共に生きていたのだ、とGIZUMOは確信した。
 一度山小屋まで引き返して、今度は赤湯方面に向かった。20分ほど行くと湿原の端に出る。そこからは切り立った断崖なのである。Mr.Pと登った平標山から谷川岳、遠くは尾瀬の至仏山なんかが見渡せる。Mr.Pがひっくり返った鉄塔も見えた。いつまで見ていても飽きない景色である。

 九時過ぎ、山小屋に別れを告げて帰路に着いた。昨日は靄っていた湿原ルートの景色を惜しみつつ崖に着く。ここから神楽ヶ峰方面が今日はくっきり見える。こんなところを登ってきたのか、と改めてK氏は鳥肌がたったようだ。ここからの展望も素晴らしいもので、何度も立ち止まってカメラに収めた。
 お花畑からの景色も思った通り見事なものだった。湯沢方面まで見える。雷清水から振り返ると苗場山が雄大な姿をくっきり見せていた。「あれが見えてたら登れなかったですね…。」とK氏は感慨深げに言った。素晴らしい思いを体験させてくれた山の神に柏手を打ってお礼をした。
 神楽ヶ峰からも雄大な景色が見渡せた。下りということもあってどこか余裕でこの景色を堪能しつつの下山であった。中の芝でも大休止を入れて、IZUMO隊長と地図を広げて実際に見える山が何山なのか確認したりしていた。こういうのってGIZUMOはけっこう楽しいのだが、Mr.PとK氏はくたびれた様子だった。
 ここからは樹林帯で下る一方である。GIZUMOが先頭でグングン下った。コースタイムは一時間半である。坂がきついだけ下りは早いのだ。何度か休憩を入れてだいぶ下ったところでMr.Pが何度も転ぶ。しんがりのIZUMO隊長が「膝がグニャグニャですよ。」と指摘する。Mr.PはどうもGIZUMOには負けたくないと思っているらしく、ピッタリ後ろを着いてくる。でも厳しい下りでどうやら膝に来たようだ。それならそう言えばいいのに下手に頑張って踏んばりが効かなくなっているのだ。
 ここでGIZUMOのストックを出したのだが、長年使っていなかったので接続部が止まらなくなっていた。実は登りも下りもずっとストックを使っていたIZUMO隊長が仕方なくMr.Pにストックを譲ることにした。少し下ると今度は手が痛いという。GIZUMOが軍手を出してやる。K氏とIZUMO隊長がストックの使い方を教える。GIZUMOもかなりペースを落として二時間かかって和田小屋にたどり着いた。
 Mr.Pがある意味頑張り屋なのは分かるが、こと山では無理をして意地を張らないこと、とIZUMO隊長に厳しく指導されていた。Mr.Pも「ここまで来れば大丈夫です、」とストックを返していた。ここで登山道を振り返り、GIZUMOは「素晴らしい登山をさせていただきありがとうございます。」と再び柏手を打って拝んだ。どういうわけかIZUMO隊長も拝んでいる。神を信じようが信じまいが、感謝する気持ちは大切ですね。
 駐車場に向かう道すがら、一匹のトンボがGIZUMOの足下にとまった。「どうしたの?、」としゃがんで手を伸ばす。トンボは逃げないで拗ねたような感じでこちらを見ていた。すぐにMr.P達が来たので立ち上がったが、平標の時のように、トンボを使姫にして神様が来たような気がした。きちんと手にしなかったのが心残りになってしまった。
 帰りは猿ヶ峡の「まんてん星の湯」で汗を流した。IZUMO隊長の提案で一泊の予定にしたのが大正解だった。「連チャンで登ろうなんて無茶な計画だと分かったでしょう、」と今年の夏のGIZUMOの計画の無謀さを指摘されてしまったが、確かにその通りである。出来ない相談じゃないが、よっぽど体力がないと出来ない計画である。GIZUMOはまだまだ己を知らないのだとつくづく思わされた。山の神様と、一緒に登ってくれたメンバーに感謝である。出来ればもう一度行きたい山である。

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