ソフト部のShuman達と結成しているロマンスカー隊での登山のお誘いがあった。つい先日陣馬−生藤山で膝が壊れて傷心の日々を送っていたGIZUMOだが、誘われるとついつい乗ってしまうのである。今回はロマンスカー隊、Shuman、OB2さん、GIZUMOに新顔の伊藤武士君(以下、タケシ)が加わった。そしてIZUMO休憩隊のK氏も参加するということになった。天気は前日の予報で雨ということだった。Shumanから「どうします?、」という連絡が入った。どういう訳かGIZUMOはやる気満々で「雨でも行こうよ、行けばそれなりに面白いから、」と言うと負けず嫌いのShumanも「わかりました、行きましょう!、」とその気になったようだ。
朝、七時に町田の小田急の改札で待ち合わせた。実はIZUMO隊長も参加する予定だったが風邪のためにドタキャンである。K氏はIZUMO氏が行くという勢いで頷いていたのでこのドタキャンはショックだったようだ。
平日の朝、たくさんの人が都心に向かって足を速めている中、五人のオッサンがリュックを背負って反対方向の電車を待っている。なんとも嬉しい構図です。
まず小田急線で松田まで。最前列の車両に乗り込み、運転席が見える位置に陣取った。実は初参加のタケシは鉄道マニアである。鉄道マニアを一般的に「テッチャン」と呼ぶのだがタケシは自らを「鉄」と呼んで憚らない。日本全国の鉄道に乗るのが最終目的らしい。歳は三十路に入ったところだが独身、鉄道のほかに「パチスロ」という高尚な趣味を持っていて、地方の鉄道に乗って地方のパチスロを打つのが人生の楽しみらしい。独身貴族で車はRX−7に乗っている。オタクらしく運転席を見ながら満足そうである。
前回と同じ松田の駅でバスを待つ間に箱根蕎麦でお腹を満たした。ここでも高校生達が通学していく。空はどんよりしているがまだ雨は降っていない。そこからバスで関本に向かう。バスでは関本だが実は伊豆箱根鉄道大遊山線の大遊山という駅でもあるのだ。二十分ほどで到着した駅前には金太郎の石像がある。ここから最乗寺まで歩く予定だったが、雨のこともあり再びバスに乗った。客は我々だけである。
いよいよ出発点である「大遊山最乗寺」に着いた。鬱蒼とした杉の古木が落ち着いた雰囲気を漂わせている。しかしここで雨が降りだしてしまった。我々は雨具を出して着込むことにした。GIZUMOはかなり苦労して買ったのだが、皆いいものを着ている。山歩きをする人間はやはりものに拘るのかな…。
最乗寺は越前永平寺、鶴見の総持寺に次ぐ格式を持つ曹洞宗の古利でその規模といい荘厳さはなかなかのものである。このお寺の中を通って登山道に出るのだがその格式ある造りに思わず見惚れてしまうのであった。
しばらく歩いたらすぐに汗をかいてしまったので、渡り廊下の一角で着替え直すことにした。通りかかるお坊さんが片手の指を隠してお辞儀をしていく。GIZUMOは一度だけ総持寺で座禅をしたことがある。その時にいろいろな作法を教えてもらったのだが、懐かしく感じてしまった。もう少し近くだったら座禅に通いたいと思ったのだが総持寺はちょっと遠いので続けられなかったのである。こんなところで座禅三昧の日々を送ることができたらいいな、と思わず空想してしまった。
上着を脱いだShumanのTシャツの背中に「関東山里愛好会」の文字がくっきり。逞しい背中にこの文字はなんというか頼り甲斐があるような感じで素敵です。「ロマンスカー隊」じゃなくて「関東山里愛好会」に改名したいぞ。
雨に濡れた世界一大きい和合下駄を右手に杉の林に向かうと明神ヶ岳に向かう登山道が見えてくる。シトシト降る雨の中、いよいよ登山開始である。道は最初から急である。岩あり階段ありでK氏のもっとも苦手とするタイプである。先頭はShuman、そこからOB2さん、タケシ、K氏、GIZUMOと続いた。
三十分ほど登ったがK氏はなかなか休憩にならないのできつそうだった。違う人と登ると自分のペースを維持するのが難しい。休憩小屋に出るとまだまだ元気そうなShumanが「一息入れますか、」とやっと言ってくれた。しかし雨が降り続いていて腰を下ろすところがない。全員立ったまま息を整えた。ヘビースモーカーのK氏はようやくここで一服できてホッとしたようである。周囲はまだ杉に覆われていて展望はない。出だしはかなりきつい山である。
しばらく行くと鉄塔が出てくる。この辺りで視野は開けてくるのだがまさに雲の中なので周囲は灰色一色でなんにも見えない。「天気が良いといい景色なんですけどねぇ…、」とShumanが残念そうである。しかしルートはかなり急である。K氏とGIZUMOは前の三人からかなり遅れ気味になる。しかしGIZUMOは前回の徹を踏まないように慎重に自分のペースを維持していた。K氏も時折不安そうに振り向いたが、GIZUMOのフィーリングが伝わったようでペースを変えなかった。
道が溝になっているところでは雨水が流れているので歩きにくい。タケシはまだ登山靴を持っていないので普通のトレッキングシューズで来てしまった。かなり水が染み込んで歩き辛そうである。まだ若いので馬力で飛ばしているようだがこういう経験をしてだんだん高価でも本格的なものの良さに目覚めていくようである。GIZUMOは水も気にせずいつものステップを崩さないようにした。
登り初めて一時間ほどで見晴らし小屋に到着した。しかし、なんの感激もなく、とりあえず足を止めて休む。ここから先はどうやら廃止になったロープウェイかリフトの朽ちた鉄塔の横を登っていく。これがかなりの急坂できつい。本来ならもう少し展望や植物を楽しむことが出来そうである。雨は上にあがるに従って強くなっているような気もする。
しかしここの景色はGIZUMOにとって忘れられない印象となった。別にどうということはないのだが朽ちた鉄塔は側で見ると以外と巨大である。そのもの悲しい鉄塔が上に向かって並んでいる。その下のルートは雨水が流れている。周囲はどうやら薄のようである。それらが灰色の霧に覆われているのである。GIZUMOの前に色とりどりの鮮やかなレインウェアを着た四人が登っていく。苦しい息の中でこれらの景色がGIZUMOの脳裏に焼きついたのである。
きっと、こういう景色が見たくてこんな雨の中、GIZUMOは登ったのかもしれない…。他の四人もそれぞれ心になにかを焼きつけていることだろう…。こんなことを思わせるのは幻想的な霧のせいだろうか…。
三十分ほど登ると水場に到着した。それまで誰一人ハイカーとは出会わなかったのだが、ここで中年の夫妻に出会った。もともと濡れているので別に手を洗うこともないのだがGIZUMOとしては山の湧水は乾徳山以来お世話になっているので興味があった。「美味しいですよ、どうぞ、」と御夫妻がコップを貸してくれたので一口飲んだ。山独特のおいしい水である。「ああ、おいしい、これでコーヒーを沸かしたら最高ですね、」といってコップを返した。
ここで一休みすると、あとは一気に頂上までの急登りである。こういう展開は慣れているのでみんなで気合いを入れて登りはじめた。ここからはさっきに増して急であるのだが、ルートは以外と短くてすぐに頂上に出た。
平坦な頂上に出ると雨風が吹きつけてかなり厳しい状況になっていた。特に風が冷たくて手がかじかんでくる。とにかく証拠写真を撮ろう、ということになったのだがこんなときに限ってGIZUMOのデジカメが電池切れ、しかも代えの電池を忘れてしまったときたもんだ。どうしようか、と考えた挙句GIZUMOの携帯で一人ずつ写真を撮ることにした。風が強くて写真を撮るのもひと苦労であった。
「昼飯はどうしよう。」OB2さんが心配している。とにかくここじゃ無理なんで一度降りることにした。頂上の、なんにも植物のないところはとにかくすごい状態だったが、少し下れと風は全く無かった。これが山の特徴なんだろうな…。
![]() OB2さん |
![]() Shuman |
![]() K氏 |
![]() タケシ |
下山に際してストックを使うことにした。ところがタケシがストックを持っていなかったのでGIZUMOが一本貸すことにした。今回はマイペースで登ったので前回ほど膝がいかれることはないと踏んだのだ。ストックはあくまで滑りやすいところの補助である。 少し行くと熊笹の生い茂ったところになんだか分からないが立派な石塔が建っていた。ここで昼食ということになった。やれやれである。GIZUMOは持ってきたお握りを二つ食べるとお腹いっぱいになってしまった。Shumanがお湯を沸かしている。他の四人はそれでカップ麺を食べている。寒かったので美味しそうである。しかしGIZUMOとしては山でカップ麺というのはどうも気が合わない。カップ麺に対する惨めなトラウマがそうさせるのかも知れないけど、ここは我慢の一手であった。
雨が降っているのでGIZUMOもタケシも立ったままである。K氏やOB2さんは石塔の下に軽く腰を下ろしているがとにかく屋根がないので落ち着かない。
標高1169Mの明神ヶ岳を制覇して一路下山することになった。明星ヶ岳の分岐にかかる鞍部までは楽な尾根道で晴れていれば軽口の一つも出そうな楽しいルートだと思う。鞍部で明星ヶ岳に行こうかどうしようか迷ったのだが、この雨なので今回はここから一気に宮城野温泉の降りることにした。
いざ降り始めると、これまた強烈な急下りである。岩がかなりあって滑りやすい。途中Shumanが滑ってあわや腰を痛打するところだったらしい。GIZUMOも一度滑って「オワァ!、」と叫んだのだが、誰も見向きもせずに下っていった。小一時間下り続けると、ようやく宮城野の住宅地らしきところに出てきた。GIZUMOとK氏はあまりの急下りに疲労困憊していたのだが、GIZUMOはそこでOB2さんがストックを逆さにしてゴルフのスイングの真似をしているのを見てしまった。えらい余裕だなぁ…。
下に降りても相変わらず雨は降っている。ぶらぶらと歩きながら温泉に向かっていると宮城野橋の左に小奇麗な日帰り温泉が見えてきた。GIZUMOはK氏に「言っておくけどあの温泉はロマンスカー隊の趣味じゃないから違うよ、」とアドバイスした。「ええ?、あれじゃないの?、」K氏は心底動揺しているようだった。それを聞きつけたShumanが「ええ、ああいうところは高いですから、」とこともなげに言い放った。更に行くと宮城野温泉会館という、いかにも地元の人が来そうな、こっちで言えば銭湯のような温泉が出てきた。「アア。ここですここです、」と三人が入っていく。「言った意味がやっと分かった…、」とK氏はGIZUMOに呟いた。
別にいい子ぶる訳ではないが、GIZUMOはこういう温泉も好きである。あまりこだわらないのだ。こういう温泉は循環装置などという高価なものは無いのでほとんどが源泉掛け流しである。ある意味では贅沢なのである。こういう贅沢を地元の人達だけに楽しませている訳にはいかないのである。
とにかくここでズブ濡れのリュックを下ろし、雨具を脱いだ。やっと体を休めることができたのである。やれやれである。温泉の入口は休憩所になっていて、幸い誰もいないので我々だけで伸び伸びとすることができた。600円の入場料はさっきの温泉とたいして違わないような気もする、とK氏の顔に書いてあったが構わず払って中へ入った。
リュックの中から風呂道具と着替えを出して脱衣場へ。それほど広くはないが、五、六人は楽に着替えられる。とにかく疲れていたのでお湯に向かった。内湯は四、五人でいっぱいくらいの広さだった。洗い場は全部で五つ。ちゃんとシャワーもついているので安心した。外の露天風呂に出てみると、露天は内湯の倍以上の広さで吃驚した。雨が降っていたので屋根の下に行った。ちょうどいい湯加減で体が暖まる。疲れがドット癒されるような感じだ。Shuman、OB2さん、タケシと続々入ってくる。最後にK氏も来て全員で一つのお風呂に浸かった。
ここでじっくり休んでようやく息を吹き返した。皆テカテカの顔で上がってさっぱりした服に着替える。身仕度をしたところでさっき電池を買い替えたデジカメで記念写真を撮った。とんだ苦労の登山になったが、これはこれで時間が経てば楽しい思い出になるのだと思う。

ここからバスで湯元に行き、ロマンスカーの切符を買った。買った切符が新型車両だったら良かったのだが、残念ながら普通の車両だった。タケシがっくりである。思い思いに酒とつまみを買って乗り込む。ここから町田までわずか四十分ほどの旅である。ここまで来ればみんな御機嫌である。
町田に着いて飲み足りなかったのでみんなを誘ってちょっとだけ飲んだ。酒を飲まないK氏だけはここで分かれた。思い起こせば苦しかったけどGIZUMOとしてはとても印象的な山行きだった。これが初めてというタケシには済まないけど、今度は好天気のときにもう一度みんなで行きたい山である。その時は絶対明星ヶ岳まで縦走するぞぉー!、なんちゃって。


