一、曇だけど出かけてみた
ここ三週間ほど、晴と雨が三日周期で変わる。どういうわけか登山部の山行きの予定がずっと雨の時に当たって中止になっていた。もう一ヵ月山に行っていない。GIZUMOとしては山が恋しくて体がウズウズしていた。こうなったらちょっとでも雨が上がった時に行こうと決めた。
この日は曇り、雨の心配はないということで単独で奥多摩の三頭山に向かった。朝、九時頃家を出た。五日市を過ぎ、数馬の辺りまではよかったが高度が上がるにつれて道が濡れてくる。雨は降っていないのだが、次第に雲が厚くなってくる。
午前11時、都民の森に着くと、まさに雲の中に入ったようだ。山に登ろうかどうしようか迷っていると、駐車場のおじさんが「さっきまで雨だったんだけど、何人か登っていったよ。」と教えてくれた。もし、ひどい降りになったらすぐに下りてこよう、と決めて、とりあえず登ることにした。
二、鞘口峠から厳しい登り
スポーツコースと呼ばれる公園の登山道はかなり急で舗装された道とはいえバカにできない。以前来た時もK氏とO氏はここで飛ばしすぎて後でダウンしてしまったのだ。K氏などはその失敗を今では伝説のように語られ取り返しのつかないほどだ。
GIZUMOは、ここは慌てずじっくりと進んでいった。ところがスポーツコースが途中で閉鎖されていて、その先に登山道があるのを発見。こっちの道は巻道になっていて、鞘口峠までは以前より楽に行くことができた。雨は降っていないのだが周囲は湿っている。気温もそれほど低くなく歩きやすい。木々の葉に濡れた水滴が時折ポタポタ落ちる音がする。私以外誰もいない。
鞘口峠から休憩所まではかなりきつい登りだと思ったが、先日ここに来たIZUMO氏から巻道があると聞いていた。確かにルートは二つある。もちろんGIZUMOはきつい方を選んだのであった。
二度目の挑戦になるこのルートだが、やはりきつい。急勾配が三十分以上続くのだ。心臓がドキンドキンと打つ度に後頭部の凝りのひどいところが痛む。周囲には誰もいない。霞がかった木々は幻想的にも見える。ひしひしと孤独を感じる。もしここで脳の血管がプツンと切れてバッタリ倒れても誰も来ないだろうな、などと考えていた。

三、山頂で運だめし
道は濡れ落ち葉で滑りやすい。約一時間で休憩所に到着。その間に四人連れの男性達と擦れ違っただけだ。ここで一服。いよいよ未踏のルートに入った。
しかし、そこから先のルートは穏やかでかなり楽だった。20分ほど尾根歩きが続くのだが1500メートルを過ぎると景色はだいぶ違ってくる。葉の落ちた木々の枝が白くなっているのだ。よく見ると枝の片側に霜が花のように凍りついている。冷たい湿った風が吹きつけたのだろう。GIZUMOはこれは樹氷の始まりではないかと思うのだがIZUMO氏によると「霧氷」と言うらしい。白い木々に囲まれた一帯はますます幻想世界を造り出していた。GIZUMOはうっとりしてしまった。
さらに10分ほど歩くと展望台のある東峰に出る。今日は雲ばかりなので登っても仕方ないので巻道を選んだ。山の南面に出ると白樺の並木になる。次第に雲が晴れ、なんと薄日がさしてきた。辺りはなんとなくそこだけスポットライトの浴びた天国のような雰囲気になってきた。GIZUMOは夏に歩いた八千穂の高原公園を思い出し、まさに夢心地になった。
日だまりを楽しみながらしばらくいくと三頭山山頂への最後の登り口に出た。三分ほどの軽い登りだ。12時半に山頂に到着した。山頂には初老の御夫婦がいてGIZUMOの顔を見るなり奥さんの方が「アラ、あなた日頃の行いが良いのねぇ、」と声をかけてきた。「?」という顔をしていると「たった今晴れてきて向こうの雲取山が見えはじめたのよ。」という。指差す方を見ると雲海の上から雲取山方面の山並みが顔を出していた。カメラを向けていた旦那さんも「本当にたった今見えはじめたんですよ、」と笑っている。「そうですか、私はよっぽど日頃の行いがいいんですね、」と笑いあった。しかし雲は見る見る広がり山は霞んでいってしまった。「富士山の方も晴れないかな、」御夫婦は反対側に行ってしまった。

山頂はにわかに日が差してポカポカしている。GIZUMOのほかには五・六人の一団が離れたところでビニールを敷いてお座敷を広げている。GIZUMOはベンチでお握りと粗末なおかずのお弁当を食べることにした。「案外楽だったな、」というのがここまでの感想。確かに休憩所までの登りはきつかったが、そこからは思いの外楽だった。
四、誰もいない下り道
30分休んで、午後一時に下山開始。山道は濡れ落ち葉で滑りやすいと思い、今回はストックを二本出した。山頂からムシカリ峠までは急な下りだが道は歩きやすい。20分でムシカリ峠の分岐に出る。そこからは道がかなり濡れている。雲が厚くなってきて空気が湿っている。足下に気を配らないとツルン、と滑りそうである。
道は渓流沿いに下り始め、登山道は岩を整備した固い道なので実はストックはたいして役に立たない。でも、滑ったときにバランスをとる役目にはなるだろう。
そこから20分ほどで野鳥観察小屋の下に出た。ここからは一度通ったルートである。山頂から一時間ちょっとで大滝に出た。そこまで一気に下ってきたのでかなり疲れた。無人の休憩所で一服。休日には人でいっぱいであろうこの場所だが、GIZUMO一人の貸切りである。寂しい気もするが、この空間を一人占めしている贅沢を楽しもうと思った。
そこからは木屑を敷いたなだらかな遊歩道をブラブラと歩いて公園に辿り着いた。途中雲の中で若いカップルと擦れ違っただけである。公園には三時に到着。予定通り下山できた。駐車場は来た時と同じようにどんより曇っている。
帰りはお気に入りの数馬の湯に寄ってのんびり体を伸ばした。久しぶりの登山で天気に恵まれたわけでもないが、山頂で晴れ間が見えたり遠くの山が見えたりと運が良かった。日頃の行いが良いGIZUMOは三頭山をまるっと制覇したのだった。


