★御正体山、雪の山頂に妖怪ポストを発見?!

 雨の明神ヶ岳登山からわずか三日後、今度はIZUMO休憩隊で丹沢の西端にある御正体山に登ることになった。奥多摩周辺の山に登って展望していると必ず出てくる名前で前から行ってみたいと思っていた山だった。1682Mあるので時期的にまだ雪が残っているのが気掛かりだったが軽アイゼンの威力もだいたい分かってきたので大丈夫だろう、と踏んでIZUMO隊長が決定したのだった。
 メンバーはIZUMO隊長、K氏、GIZUMOのレギュラーである。朝六時にIZUMO隊長の愛車GOLFで出発。K氏を拾って勝手知ったる道志道を山中湖に向かって一直線である。箱根の時と違って天気は上々。多少肌寒いが空気が乾燥していて気持ちが好い。途中コンビニや道の駅「道志」に立ち寄って休憩を入れたが八時前には登山口のある山伏トンネルに到着。八時には出発できた。
 この山伏トンネルは山中湖と道志を分ける峠で、ここを境に空気が全く変わってしまう。一度、まだ車の免許を取り立ての頃、軽自動車で通ったのだが、トンネルの先が凍っていてスピンしてしまい、危うく家族三人事故死するところだった、という強烈な記憶があるのだ。そうでなくてもなんとなく気になる場所である。まさかこの場所から山に登るとは夢にも思わなかった。

 トンネルの脇に車を停めて鎖を乗り越えていくといまや廃墟となったホテルの跡に出る。爽やかな朝なのでなんとも思わないが深夜だったらかなり怖いのではないだろうか。三人で窓などを覗き込んだりして観察したが、あまり気味のいいところではない。そのホテルの横に小さな鳥居があって、そこが登山口になっている。
 道は乾いていて登りやすい。少し登って左手を見ると富士山がよく見える。高度を上げていくと時折まだ溶けていない雪があって、滑って下に転げ落ちそうな場所もあるのだがそれもすぐに終わる。急坂が続いて息が切れてきたので三十分ほどのところで休憩。富士山と山中湖が見えて豪快な景色である。
 先はまだ長いので早めに出発する。二十分ほど登ると石割山との分岐に出る。ここにはベンチもあるので又々休憩。IZUMO隊長がしきりに標識などを撮影している。ここまで、けっこうな登りだったのだがGIZUMOとK氏は苦しい箱根を経験してきたのでわりと辛くなかったのである。やはり苦労はしておくものである。まだとりついたばかりのところで苦労も糸瓜もないか…。
 すぐに「奥ノ岳」の標識のあるピークに到着。ここから東に目を向けると大きなピークが幾つも見える。「次が御正体山かなぁ…、」とGIZUMOが呟くと「奥ノ岳というくらいだからまだ『中』とか『前』とかあるんじゃないですか。」とIZUMO氏はクールに答えた。調子のいいK氏はずっと上機嫌である。
 あまり景観のない林の中の道を黙々と登っていくと三十分ほどで突然視界が開ける。目の前に巨大な鉄塔が聳えている。この鉄塔を建てるために周囲の木を伐ってしまったのかどうかは分からないが、とにかく眺めが好いのである。ちょっとした「雲の上」気分である。特に富士山方面の景色が見事で、あまりこの角度から見たことがないのでIZUMO氏とGIZUMOは夢中であれが○○山、これが△△山と言い合っていた。K氏が横で気のない相槌を打っている。この人は本当に山の名前を覚える気がないんだね。
 興奮しつつも先を目指して再び進むと、じきに中ノ岳の道標が出てくる。この辺りまで来ると所々雪があるのだが歩くのには支障はない。前ノ岳まではそんなに苦しい道でもなかったのだが、御正体山本体はかなり大きく見える。「ここからあそこに登るんですよ。」IZUMO氏がK氏に言うと「そ、そうだね。凄そうだね。」とK氏は動揺を隠せない。「道は直登かなぁ…、」とGIZUMOが呟くと「そりゃそうでしょう、」とIZUMO氏がキッパリ答えた。
 前ノ岳からしばらく下るとすぐに登りになる。かなりきつい登りである。黙々と登っていく。二十分ほど登ったところで一休み入れる。周囲は木で展望はない。ルートは整備されているので歩きにくいということはないが、次第に雪が混じってくる。さらに二十分ほど登ると小さな祠が見えて平らになる。「着いたぁ?、」というK氏の声にGIZUMOは上野原の扇山を思い出し「もう少し向こうだと思うよ、」と答えた。頂上付近から急に雪が増えて一面白くなる。しかし傾斜が緩いのと誰かの踏み跡があるのでアイゼンを着けなくても平気である。雪は30〜50センチ積もっているのだが天候のせいか寒々とした印象がない。むしろ火照った身体に気持ちのいい感じである。

 12時20分、御正体山頂上に到着。白い雪の中からまだ新しいベンチと机が顔を覗かせている。その先には小さな祠がある。実の気持ちの好いところである。すると後ろからK氏の声が…。「あのポストはなんでしょうねぇ?、」「あれは鳥の巣箱ですよ、」とIZUMO氏が笑いを噛み殺している。「こんなところにポスト作ってどうすんだよ、妖怪ポストじゃないんだから。」とGIZUMOも応酬した。「そうか、巣箱だったんだね…。」K氏のオトボケはどこまでが本気なのかわからないのである。
 ここでお弁当である。やはり雪に埋もれていてもベンチのところに座って食べることにした。頂上は木に囲まれているので展望はないが広々としているので気持ちがいい。さすがに気温は低いのだが空気が乾燥しているので爽やかである。
 ここで五十分ほど遊んでしまった。看板には樹木の名前やら自然保護のことなどが書かれている。弁当のゴミを片付けていると、ふと足もとに日本酒のワンカップの瓶を見つけた。「コンチキショーッ!」と心の中で思った。誰かがここで酒を飲んで、「イイヤ、」と思ってブン投げていったのだ。こういう奴ってどうにかならないのだろうか。自然を守ろうという片側でこういう奴が無神経に自然を破壊していくのだ。十年ちょっと前まではヘビースモーカーで平気で道端に吸い殻を投げ捨てていたどうしようもない自分を棚に上げて思うGIZUMOであった。もちろん瓶はGIZUMOが持ち帰ったのはいうまでもない。

 ひとしきり遊んで下山することになった。今回は来た道を帰るのである。だいたいの雰囲気が分かっているので気が楽である。しかし急な登りは急な下りでもある。まだ雪が残っていて滑るところもあるので全員ストックを出すことにした。
 陣馬のこともあって膝が心配だったのだが前回の箱根同様膝は全く痛まない。疲れ方が違うのかもしれないがその分GIZUMOはだいぶ楽に感じている。たぶんK氏も同じだと思う。IZUMO氏は珍しくやや苦戦しているようにも見えたが、ルートが長いわけではないので心配はいらないだろう。
 「前ノ岳」「中の岳」と確認だけして休まずに歩いた。鉄塔の所まで来るとIZUMO氏が「少し休みましょう、」といってカメラを持ち出している。確かにここはこのルートで唯一展望がいい場所である。南に目を転じれば丹沢の山々が間近に迫っている。特に大室山が目立つ。GIZUMOはここでホームページ用の写真をK氏に撮ってもらったりした。
 とにかく石割山の分岐まで頑張ろう、ということで歩き出した。奥ノ岳の道標がどこにあったのか誰も気がつかないで過ぎてしまったようだ。頂上から約二時間、なんとなく夢中で歩いてようやく分岐までたどり着いた。鉄塔のところ以外はほとんど休まず、IZUMO休憩隊としては非常に珍しいパターンである。ここではさすがに休むことにした。
 ふと見るとズボンの裾がどろどろになっている。GIZUMOはどうも変な歩き方をしているらしく、道がどろどろだとズボンの裾が泥だらけになってしまうのだ。雨のときなど合羽の股の割れ目のところまで泥がついているのだ。K氏などは「いったいどんな風に歩けばそんなになるの?、」と首を傾げるほどだ。GIZUMO自身分からないのである。これはなんとかせねばなんない問題である。
 「いったいどこが山伏峠なんでしょうねぇ、」とIZUMO氏がブツクサ言っている。確かにそれなりの道標がないとよく分からない。行くときに最初に富士山と山中湖が見えた、あの辺りが峠ではないか、というようなことを話し合っているうちにちょっとばかり厳しい下りになった。しかしそう長くはなく、四十分ほどで登山口まで降りてきた。いつも通り下山は四時半頃である。

 さて、リュックの中をかき混ぜてみても代えのズボンがない。まさかこんなに汚れることはないと思ってなんにも持ってきていないのだ。合羽もない。「このまま乗ったら承知しないよ!、」IZUMO氏が無言で鬼のような顔をしている。GIZUMOは一計を案じて登山用の靴下の中にズボンを入れた。出来損ないのニッカポッカみたいな格好である。「変なの、」とK氏が大喜びである。着替えているとたくさん車が通るのだが、みんな吃驚したような顔でこちらを見ていく。でも別にGIZUMOは気にしないのだ。
 しかしずっとこのままではIZUMO氏が気の毒である。たぶんどこかに用品屋があるからそこで停めて、ということで出発した。しかし田舎のことでそんな店はない。一見コンビニのような雑貨屋のような店があったのでそこで止まってもらった。あちこち捜すと1000円のビニール合羽があった。「これでイイヤ、」。レジのオネーさんに奇妙な顔で見られながら合羽を買った。
 帰りは道志の湯に浸かって、いつもの通りあったまった。ビニール合羽の下だけ穿いてズボンの代わりにしたのだ。ところが風呂上がりで汗が出る。しばらくすると今度は汗が冷えてつめたい。歩く度に足がすくむほどだった。これにはまいってしまった。こんな経験はもうしたくない。山を甘く見ないで支度だけは万全にしなさい、という教訓になった。でも、そこでGIZUMOだけはビールとモツ煮でこんな自分を祝福した。こういうときのIZUMO隊長のムッとした顔がまたいい肴になるんですよねぇ。

 箱根の厳しい登山の後だっただけに今回はあまり辛いと思うところもなく楽しい登山だった。相変わらずK氏の天然ボケが冴え渡り、笑いながら歩いているうちに終わってしまった。しかし山頂の、雪景色なんだけど妙に暖かいフィーリング、鉄塔のところの180度パノラマなど記憶に刻まれたところも多い。全体的によく整備されていて登りやすい山、という感じである。帰りにつまらないハプニングがあったがそれも笑い話だ。久しぶりに楽しい山行きだった。

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