★川乗山−IZUMO対GIZUMO・一騎打ち

 2004,06,04、奥多摩の川乗山に行くことにした。最近はGIZUMOが勝手にこの山に行こうと決めて、「今度ここに行くよ、」と話しているうちにIZUMO氏も一緒に来るようになる、というケースが多い。今回の川乗山も予てから念願だった山で、本などで調べると「中級クラス」のやや難しいコースとされていたのでぜひ挑戦したかったのである。
 梅雨の始まりのこの時期であるが、明日から雨になる、という前日で空気が乾燥した気持ちの好い快晴だ。GIZUMOの日頃の行いの善さがここでも発揮されたわけだ。この快晴にIZUMO氏は何の関係もない、と言い放っておこう。
 さて、朝六時、IZUMO氏の愛車ゴルフに乗って出発。いつものK氏との掛け合い漫才もなく至ってアカデミックな話題に終止しつつ奥多摩駅に着いた。道はスイスイですこし余裕もある。いつもの駐車場に入れたのだが、早朝のためにゲートに人影がない。とりあえず車を停めて出発の用意をしていると箒を持ったおっさんが掃除をしつつちかずいてきて、「ここはお金払って券を置いてくれないとね。」などと訝しい目を向けた。普通に「券を買ってください。」と言えばいいものを、人を疑うような態度は気分が悪い。途端にIZUMO氏の機嫌が悪くなってしまった。
 奥多摩駅で8:10発の日原行きのバスに乗って出発を待っていると、電車の到着と同時にたくさんの登山客が乗ってきてほぼ満席になった。GIZUMO達は奥の席でリュックを抱えていた。すると突然、ジュルジュルジュル、と不快な音がした。なにかと思えば登山客の一人で年配のオッサンがでかいペットボトルから水を飲んでいる。細い飲み口に唇を尖らせて、妙な格好で音をたてている。とたんにIZUMO氏が機嫌を損ね、「だいたい山に登る人間っていうのは社会性に欠けた奴が多いんですよ、」と聞こえよがしに言った。「ああいう非常識なことを平気でやる奴ばっかりですよ!、」マ、怒りはわかるけど、ここは押さえて押さえて……。

 川乗山登山口で下車。我々は写真を撮ったりしているのでぐずぐずしている。その間にほかの登山者は次々と出発していく。さっきの親爺も奥さんと一緒に登っていった。緑が気持ちのいい道である。しばらくは川に沿って歩くのである。
 今回GIZUMOはビデオカメラを持ってきたのだ。いつもの文章に加えて映像も作ってみようという試みである。登山道はそれに相応しく、渓流沿いに山らしい景観が続く。渓流を何度も渡るのだが、その度に出会う橋の趣が飽きさせない。所々きつい登りもあるのだが、それほど気になる辛いものではない。ただ、GIZUMOが撮っているので映っているのはIZUMO氏ばっかりで、なんだかIZUMO主演の一編になってしまいそうである。
 小一時間も登ると渓流も次第に岩が多くなって小さな滝が見えてくる。渓流釣りをやる人なら涎が出そうな場所が幾つもあったが、ここは禁漁区なのだろうか、それともまだ解禁前なのだろうか、釣り人の姿はない。しばらく行くと百尋の滝の分岐に出る。そこからほんの少し下ったところに滝があるのだ。勾配が急な木造の階段がある。IZUMO氏は「実は僕は高所恐怖症なんですよ、」といいながら恐る恐る下っていく。岩陰から巨大な滝が見えてくる。「オオー、」思わず声が出る瞬間である。確かに百尋の滝である。幅は八メートルくらいあるのだろうか。高さは三十メートルくらい。目の前に雄大な姿を見せている。
 GIZUMOとIZUMO氏はここでカメラなどを出してさんざん撮りまくったのである。GIZUMOは滝のすぐ下までいった。天然のマイナスイオンを体いっぱいに感じる。目に見えない水気が涼しくて気持ちがいい。この下で滝に打たれる修行などしたら、やっぱり死んじゃうかな……。

 滝で一遊びして、いよいよ頂上を目指す。実はIZUMO氏曰く、「山と渓谷によるとこの先で転落事故が何件かあったらしいですよ。」。ちょっとした緊張感が走る。いったいどれほど危険な場所があるのだろうか。しかしいくら歩いてもそれらしき場所は見当たらない。確かに山道はどこでも油断して一歩踏み間違えれば転落するところは多い。しかし、だからといってそう簡単に転落するものではないし、それなりの広さがある。このルートもよく整備されている。「いったいどこで転落したのかね…。」などと首を傾げてしまう。「木に囲まれて高度感が麻痺してしまって転落するんじゃないですかね。」とIZUMO氏。そうかもしれないが、だとしたらよっぽど広がって並んで歩いたか、なにかに夢中になっていたかである。
 二回休憩をして一時間ほど登ると頂上直前の分岐になる。IZUMO氏の予定していたコースとGIZUMOが調べていたコースは別だった。ここでどちらか選ばなければならない。GIZUMOの調べたコースはやや辛そうで、この分岐からも一度下らなければならない。IZUMO氏のコースは素直に登っていくものだ。ここではIZUMO氏の顔を立てることにした。十分ほどで廃屋のような元売店に到着。ここは防火線になっている。更にすこし登ればもう山頂である。

 山頂はかなり広くベンチもいくつか用意されている。既に先客が弁当を広げていた。バスで変な音を立てて水を飲んでいた親爺もいる。かなり腹がへっていたので山頂探索は後回しにして我々も弁当を広げた。
 やがて人もいなくなったので山頂を歩き回ることにした。山頂付近では日暮しかと思われる鳴き声が聞こえているのだが、ちょっと声が汚い。また別の種類の蝉かもしれない。眺望は南と西が開けている。南に向かっては奥多摩三山が揃って見え、その向こうには富士山が聳えている。IZUMO氏はいたく感動していた。西にはあまり馴染みのない山が連なっているのだが、ちょうど真ん中に雲取山が控えている。IZUMO氏に雲取山のことを聞きながら、いつかGIZUMOも登る日が来るのであろうか…、と考えていた。

 ここで写真やビデオを撮って、一時間ほどで下山することにした。下山ルートは鳩の巣駅に向かうものでコースタイムは二時間半になっている。GIZUMOは最近自分の下山のスピードが遅すぎるのではないかと気になっている。そんなことでIZUMO氏に断って、今日はいつもより早いペースで行くことにした。
 はじめはけっこうな下りで、GIZUMOはやや膝を折った状態で歩いた。いつもは膝を伸ばした状態で下りているのでどうしてもスピードが遅くなる。やはり山登りを始めた当初、膝の痛みに苦しめられたトラウマなのだろうか。そうするとふだん使っていない筋肉を使うので足がピクピクする。そして以前痛くなった靭帯がまたまた痛くなってきた。この歩き方はGIZUMOには合わないのか。
 四十分ほど歩いて休憩。この先はなだらかな道が続く。「ねえ、これってぜんぜん下ってないんじゃないの?、」GIZUMOが不安を感じて言うとIZUMO氏も「ひょっとしたら最後に地獄が待ってるかもしれませんね…、」とやはり不安げである。一時間ほどこんな道が続くのだ。いったいどれほど高度を下げたのか首を傾げたくなる。膝についてはIZUMO氏も一度痛めたことがあるので、そんなに慌てることはない、と言うのだが、コースタイムを睨んでみるとやはりかなり遅れ気味である。
 山頂から二時間ほど歩いてようやく「大根山の神」に到着。ここまでは下りとしてはかなり楽なコースである。しかし、やはり距離がある分疲れは溜まる。ここからはどうやら本格的に下るようだ。GIZUMOも覚悟して下りはじめた。しかし今回の歩き方はやはり向かないようで、三十分ほどで靭帯が本格的に痛くなってきた。このまままだ長く下るようなら持たないかもしれないと思い、ストックを出すことにした。しかし、この下りも思ったほどではなく、ストックを出して曲がり角を一つ下りたら鳩の巣の町に出てしまった。
 まだ時間があるからのんびり行こうと思ったら、IZUMO休憩隊のお決まりの四時半にちかずこうとしていた。急いで駅まで向かってようやく電車に乗り込んだ。やはり全体で下りのコースタイムを一時間ほどオーバーしている。皆さん凄いペースで下山しているんだな、と思う。IZUMO氏は気にしなくていいと言うが、その実これはすこし憂慮すべきだと思っている様子だ。というのも、これを頭に入れておかなければ大変なことになる可能性があるからだ。我々の下山ペースは約1.5倍遅いのだ。こればっかりはどうしようもない。新たな発見と認識である。

 無事奥多摩に到着、帰りは今まで何度もふられているもえぎの湯に寄った。思ったよりも浴室はこじんまりしていて、以前止めたときのように大混雑にはいったいどんなことになっているのだろう、と考えるだけでも恐ろしくなる。階段を下りて露天に行くのだが、露天自体は大きい方か、IZUMO氏がカルキ臭いといっていたが、確かに温泉としてはちょっとなぁ…、というところですか。でもこの辺りでは貴重な温泉なのであります。

 川乗山はかなり手強いと覚悟していたのだが、登りは思ったほど苦しいところもなく、IZUMO氏が心配していたような危険な場所もなかったように思う。行きは百尋の滝をはじめ、変化に富んだ素晴らしい眺めと気分が味える。IZUMO対GIZUMOの一騎打ちも、互いに膝にトラウマがあるというところで今回は痛み分けである。この山は秋の紅葉の時期に、K氏やO氏を誘ってきてもいいかな、と思う。

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