★白山登山行・菊理姫様はいたのか?

2009年7月10日、私は白山菊理姫様に合いたくて、遂に白山登山に挑戦することにした。とはいえ東京からは遠い。そこで高速道路1000円を活かして行動することにした。昼頃に出発。その日のうちに琵琶湖の南条SAまで行って、そこで車中泊。翌朝六時までに市ノ瀬ビジターセンターに着く計画を立てた。
ラッシュを避けて10時頃出発。天気は曇りだが時折日差しもある。今回は中央道廻りで行くことにした。昼前に笹子トンネルを抜けてしまった。釈迦道PAで一服。ここからは縄文土器の展示室がある遺跡博物館に直接行けるので気分を盛り上げるために寄ることにした。
大したことないだろうと高をくくっていたら、どうしてどうして立派な土器がたくさん並んでいた。土器を見ながら遠い縄文の時代に想いを巡らせる。なかなか生のイメージが来ない。どうしても土器の土のイメージしか浮かばない。時間があったので館内をじっくり見て回った。一番印象に残ったのは小さな手のひらサイズの顔の土器と、それにちなんで笑顔の子供達の写真が飾られていたところだ。きっと数千年の時代を越えて同じような笑顔が並んでいるのだろう。
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車を飛ばして夕方七時過ぎに南条SAに着いた。ここで夕食を済ませ、お土産屋をぶらついてから車中の布団に横になった。こういう所で眠るのは慣れもあるのだが、やはりエンジン音がうるさい。夜中に何度か目を覚ましたが、気がついてみたら予定の時間を一時間も過ぎていた。
急いでトイレと洗顔を済ませて出発。それでも朝の高速はスイスイだ。福井北ICで下りて越前永平寺の横を抜けて白山登山の前衛基地になる市ノ瀬ビジターセンターには六時半に到着した。休日ということもあって人が多い。駐車場もぎりぎりセーフだった。そこから満員のバスに乗って30分。別当出合に到着。午前七時、いよいよ出発である。
今回のルートは砂防新道にした。登山口には大きな鳥居があって、山全体が神社である、という雰囲気で気持ちが引き締まる。バスで同乗していた登山者に混じって最初の大きな橋を渡った。ここからの景色も見事で、さっそく立ち止まって写真を撮る人も多かった。時間的余裕もあったのでそう急ぐこともなかったのだが、早く菊理姫様に合いたくて急ぎ足になりがちだった。このルートは植物が豊かで、年配の登山者の中にはそちらが主目的な人もいてよく写真を撮っている。私も小さな命を楽しみながら登ろうと心掛けた。
40分ほどで中飯場に着いた。先発の人達がたくさん休んでいた。ここからは登りもややきつくなる。時折展望が開け、隣の別山が大迫力で迫ってくる。しばらくすると砂防ダムが見えてくる。なかなか壮大な眺めである。大自然と人工物が織り成す不思議なバランスにしばし見入ってしまった。別当覗から見る観光新道のある尾根は崩れが目立って痛々しい。
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甚之助非難小屋を過ぎて少しするとエコーラインへの分岐点に出る。ここまでは白山といっても目立った岩座があるわけではなく、これが霊山だ!、というような迫力ある場所もない。道は登りも緩くなって景観を楽しみながら歩けるこのコース唯一の楽で美しいところだ。
しばらく行くと水の音が聞こえてくる。やがて右側にはっきりと岩座と判る巨石に出くわす。ここを境に空気がはっきりと変わる。明らかに「神域」に入ったと感じる引き締まった雰囲気になる。それもその筈で、最初の巨石を回り込むと、そこは正に巨石の庭と言っていいほど乱立しているのだ。もういちいち柏手など打っていられなくなる。「いよいよ始まったなぁ…、」と思いながらきつくなってきた登りを進むと、広大な巨石郡の遥か上方に黒い岩が見えてくる。これが「黒ボコ岩」である。とりあえずの目標だ。そしてそこに至る長い階段ルートに粛々と登る登山者の姿が古いビーズのように見えている。かなり気合いが入る。
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巨大岩座群を抜ける神域の道とはいえ、生身の人間にはかなりきつい階段ルートをとりあえずマイペースで登る。数人の年配ハイカーを追い抜いたが最後は膝がガクガクになってしまった。約20分、階段を登り詰めようやく黒ボコ岩にたどり着いた。たくさんの人が腰を降ろしている。ちょうどお昼時で弁当を広げている人もいる。私も登り切って初めて振り返ると、別山が真正面に見えて荘厳な景色である。巨石群も見下ろすとなにか規則性があるように並んでいるのが判る。ここで15分ほど体を休めた。
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さて、黒ボコ岩の裏に回ると、そこは弥陀ヶ原という湿原が広がり、その向こうに白山本体が初めて見える。それはそれは厳かな風景に出くわし、思わず柏手を打って御挨拶をした。弥陀ヶ原入口には「白山神社奥宮境内地」という碑が建っている。なんて広大なお宮なんだろう…。
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しばらくの平坦な木道歩きは疲れた足腰には非常に助かった。雪渓を抱く白山を眺めながら一時の旅情を楽しんだ。15分程で歩きづらい岩のルートになる。これは疲れ切った膝にはきつかった。ヒーヒー言いながら登る。登っても登っても第一目標の室堂は見えない。下山する人が笑いながら「もうすぐですよ。」と教えてくれるのだが、本当かな?、と首を傾げてしまう。それでも頑張って登ると、突然室堂の山小屋が現れた。「まじっスカ!?、」そこはまるで別世界である。なるほど白山登山はドラマチックなのである。

白山室堂ビジターセンターは750人収容できる巨大な山小屋だ。目前に大きな入口があり、中にはホールがある。その横には100人位使える食堂があり、10人以上の若者がスタッフとして働いている。昼を過ぎたところで客はまだ少なかった。反対側は広場で、ベンチやテーブルが並んでいる。目の前には白山が聳えている。その登山口には鳥居が建っていて、横には奥宮の神社がある。山小屋風の社で神社らしくない。中には神殿があり、両側に御守りなどが並べられている。
チェックインを済ませると若い衆に宿泊棟に案内された。300人ほど収容できそうな小屋が4棟ある。部屋は二段ベッドになっていて、一人一メートル幅くらいの布団が15人分くらい並んでいる。指定された場所にリュックを置いてしばらく休んでからいよいよ白山に登ることにした。
白山山頂までは標高差250mである。ペットボトルとカメラだけの身でもなかなか膝が上がらない。時間があるのでのんびり行くことにした。道沿いには白山特有の可憐な花が咲いている。写真を撮りながらゆるゆる登っていくと中間辺りに「高天原」という看板がある。ここが本当の高天原だったら自分も遂に神様の国に来たってことになるのかなぁ…、などと思いつつ先に進んだ。
小一時間で山頂に到着。最初に目についたのが奥宮の立派な社だ。こじんまりしているが下の奥宮より数倍神社らしい造りになっている。しかし私は早く白山山頂の様子が見たくて素通りして御前峰山頂に出た。そこは思った通り岩がゴロゴロしている。どんな霊山に登っても山頂の岩座が奇麗に残っている処は少ない。ここも岩が一見無造作に散らばっている。私見だが、かつてはもう少しそれらしい形をしていたのではないだろうか。
反対側には御前峰と共に白山を形作っている剣が峰と大汝峰がある。また緑色の火口湖も見えてまるで箱庭のようだ。そこを歩いている数人のハイカーが人形のように見えた。本当は私も巡ってみたいのだが、今回は体力温存でパスすることにした。
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そう狭い山頂ではないのだが、後続の登山者が続々と来て次第に賑わってきた。私は奥宮にお参りしてから、岩座の中に座り心地のよさそうな所を見つけて腰を下ろした。ここで暫くじっくり瞑想しようと思ったのだ。
風が少しあって、動いているとそうでもないが座ってしまうと寒くなった。しかし、瞑想を始めてしばし、体がポカポカしてきたのだ。ふと空を見上げると、雲の一角が薄くなって太陽が姿を見せていた。そこから暖かい光線がスポットライトのように当たっている。どうやら歓迎されているようだ、とホッとした。
いつものように目を閉じて見えもしない「潜象光」を探ってみた。すると眼前が真っ赤になってきた。よく瞼に流れる血液の色が赤く見えることもあるのだが、この赤い色はどんどん濃くなっていって、今まで見たことがない迫力のある赤色になっていった。「な、何なんだ?、」訝しく想いながらも意識を集中していくと、その凄い赤色の真ん中に丸いフラクタル画像が浮かび上がった。必死にその画像を凝視していると、模様がどんどん変化するのだ。暫く観察していたのだが、フとこれはメッセージなのではないか、と思ったのだ。また、これが白山菊理姫の真の姿のようにも思えた。「アア、理解できない!!、こんな言葉わかんないですよ…、」そんな気持ちに追いやられてハッと目を開けた。全体に白く霞んでいたが、遠くから年配のハイカーが私を訝しそうに見ているのが目に入った。短い時間なのに別世界に居たような感覚だった。暫くぼんやりしていた。白山菊理姫様が話掛けてくれたのか?。なんとなくそんな気がして嬉しくなったのは確かだ。こういうのを人は妄想というのだろうか、果たしてそうなのか。私としては自分以外の人を納得させるだけの言葉を持っていない。
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ゆるゆると下山した。登りの時よりも草花を見る余裕があった。年配の女性ハイカーが妙に騒いでいる花がある。よく見ると黒い小さな花で、別段奇麗とも思わなかったのだが、これが彼の有名な白山の「黒ユリ」だったのである。下山中、この花を見る為にだけ登ってきたという人に何人もあった。知らないということは恐ろしいものだ……。
四時頃室堂に戻ってしまった。夕食まですることがないので小屋の周りをぶらついてみた。すると、白山を背に小屋の左側に一群の岩座を発見した。さっそく行ってみた。位置を調べると、白山と別山を結ぶ線上にあるのが判る。私は、白山も強力だが別山にも強い力を感じるのだ。別山は双峰の山で、これは霊山の基本的な条件の一つである。自分にここのシステムを見抜く能力がないことが歯がゆい思いである。
一通り見て回ると、いよいよ何もすることがない。日が傾いてくると次第に寒くなってきた。一杯500円のコーヒーを飲みながら外のベンチで白山を見上げて、金井南龍さんの武勇伝に想いを馳せたりしていた。彼は真夜中の白山頂上で、幽閉されていた菊理姫様を開放したというのだ。その時何千という姫の眷属が金蜘蛛という神の乗物で飛び立ったという。それが私のような凡人の目にも見えたものなのか、はたまた彼の様な霊能力者の目だからこそ見えたのかは判らないが、物凄いスペクタクルシーンである。しかし眼前の白山はまったく穏やかである。
周囲はどのベンチも満員で酒盛りが始まっている。お兄ちゃんお姉ちゃんのグループ、年配者のグループ、みな酔って大きな関西弁が飛び交っている。白山という神の山を前にして、些か不謹慎にも思えたが、関西の登山愛好家にとってこの山は、関東の富士山に匹敵する存在のように感じた。ここにいる人達はみんな、あの苦しいルートを登ってきたのである。それにこの山に対する愛着も感じる。一人でいるので大騒ぎはちょっと羨ましい気がした。昔から人は神の前でこうして酒を飲んで大らかな気持ちになるのが大好きなのだ。正にお祭りである。
なんだかんだ夕食まで二時間程、白山と向き合っていた。少々退屈なところもあったが、見詰め続けることで山と「気」が通じたような気がする。後になって思い返せば、本当に貴重な時間だったと思う。
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何人かの若者と抜きつ抜かれつしながら、私としてはかなりのスピードで降りた。とはいえ標高差1000m以上だとさすがに足にくる。途中からなんだか意地みたいになって頑張ってしまった。甚之助非難小屋を過ぎた辺りで可愛い鶯が現れた。この時期鶯の鳴き声はよく聞こえるのだが、その中で一羽「ホーホケキョ」の語尾のところが「ホーホケキュウ、」と鳴くのがいたのだ。その声があまりに可笑しくて思わず笑ってしまう。どういうわけかその鶯がずっとついてきているようで、中飯場を過ぎる辺りまでずっと楽しませてくれた。下山の辛さを忘れさせる出来事である。![]() |
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